笑う角には福来る、 くすくすと笑いながらそう、日本の言葉を教えてくれたレイナを見上げながらまばたき一つ。 「どうしたの、急に」 「マリーってあんまり笑ったりなんかしないから。 笑ったらいいのに、と思って」 そう言われても、とマリーは困ったように首を傾げる。 表情筋が職務怠慢なのは物心つい頃から──今から30年も前の話だ。 ストライキにもほどがある、これでは失業だろう。 「マリー、聞いてる?」 「──うーん、半分」 もう、と頬を膨らませるレイナに微苦笑一つ──それも微々たるもので、表情が変わったと認識するには付き合いが長くないと判別は難しいだろう。 「何してるのかな、二人で。楽しそうだね」 「あ、ルーピン先生」 回廊からこちらのいる中庭へと、ひょこひょこと軽い足取りで歩いて来たルーピンに、レイナは「こんにちは」とぺこりと頭を下げた。 「今、マリーに笑顔の良さを語っていたところなんです」 「それはまた……マリーには難しい講義だね」 にこりとルーピンに笑いかけられ、マリーは肩を竦めて返す。 「駄目よ、マリー!そこでしっかり笑い返さなきゃ」 「いいんだよー、それをされたらマリーのイイ人に呪われてしまいそうだ」 「ルーピン先生……」 カラカラと笑うルーピンに、呆れたように溜め息一つ。 「そう言えば婚約者がいるんだもんね……。 でも、そんなに嫉妬深いんだー」 レイナの言葉にあながち否定も出来ず、マリーは微妙な返事で誤魔化した。 「そうだ、マリー。 その彼から伝言を預かっているよ」 「?」 小首を傾げたマリーの耳元に、ルーピンは優しい笑みを浮かべてこそりこそりとその伝言を伝える。 その時レイナは、一瞬マリーの表情が幸せそうに綻んだのを見た。 「──……」 ぽかんと見惚れたレイナの前で、ルーピンはしっかり伝えたからねとマリーに念を押した。 「あんまり待たせちゃ、駄目だよ」 「わかってるよ」 立ち上がったマリーはレイナを振り返った。 その表情はいつも通り──ぼんやりとして感情は読み取れない。 「野暮用が出来たから、行ってくる」 「う、うん、いってらっしゃい」 去り行く背中を見送りながら、さっきのは見間違いだったのだろうかと首を傾げるレイナにルーピンが笑った。 「わかっただろ? マリーの表情を引き出せるのは彼だけなんだよ」 妬けちゃうね、と悪戯っぽくルーピンは笑った。 END