用意するのは、羊皮紙の切れっ端。 それにホグワーツの地図を、マリーの指先が慎重に魔法で焼き付けていく──“忍びの地図”の原形だ。 一階、二階、三階と描いては隠し、重ねるように次の階層を描いていく。 地図は学校内だけでなく、校庭に中庭、それから暴れ柳から続く叫びの屋敷まで。 「此処に、抜け道がある。 通じる場所は、今は崩れているから使う時にはどうにかしないと」 そう言ってジェームズが、描いた地図に杖の先で教室の名前や抜け道の場所を追記していく。 「此処にもあったよな?」 「そうそう、何処に続いてたっけ……」 隣で頭を悩ますシリウスに、同じく首を傾げるジェームズに、ルーピンが答えを見つける。 「──それより、地図は何とかなったけど。 人の居場所はどうやって描くんだい?」 「《言霊》を使うのさ」 そう謳うようにマリーは言いながら出来上がった地図を掌で撫ぜた。 「声紋と言ってね。声にももちろん、指紋のように“個”があり“名前”を持つ」 マリーの指先が触れた場所から一本の線が描かれ、それが音に反応するように波状に揺れ初め、スピードが最高潮になった瞬間線が躍り名前を描いた──校長室をゆっくりと歩くのはダンブルドアの名前だ。 「学校全体にも《言霊》がかけてある。それに反応して名前が同じように動くんだ」 「それが全員分、地図に表示出来るんだね」 「──いや、全員じゃない」 嬉々としたジェームズの声に、マリーは地図に名前を浮かび上がらせながら答えた。 「死体や、ピーブスなんかのゴーストは反応しないよ。声帯が元々ないからね。 もしも出したいなら、違う方法を考えなくちゃ……」 「ピーブスの奴は考えたほうがいいかもな。 死体は別にしても」 顎に手を添えて悩む素振りをしたシリウスに、マリーも頷いた。 「それと、私の名前は出ないよ」 「は?なんで?」 「役目がら、仕方がないと言って貰いたいが……」 苦く口許を歪めたマリーに、ジェームズは眉を潜めた。 「相変わらず……夜に抜け出して梟待ちか?」 「ううん、最近は私も“行った”りしてる」 「戦いに出てるのか?!」 声を荒げたシリウスに、マリーが口許に人差し指をあてるジェスチャーをした。 「ガブリエル、として仕方がないんだよ」 「でも、君はまだ」 「継いだのは11の時だ、参加は遅いくらいさ」 伏せた瞼の下、マリーの碧眼に写る感情を読み取る事は出来なかった。 地図に点いた指先がグリフィンドールの寮をなぞり、男子寮と女子寮の間の小部屋に4人の名前を描き出す。 ジェームズ・ポッター、シリウス・ブラック、リーマス・ルーピン、ピーター・ペティグリュー。 しかし、ガブリエル・マリー・カウンシルの名前はない。 マリーは描き終えた地図に杖先を向けた。 「“いたずら完了”」 その呪文に反応して、地図は消え去るとパタパタと綺麗に畳まれ、ただの羊皮紙の切れ端に戻った。 「この呪文は忘れないようにね。 あとは、君達の“遊び心”を施せばいい」 黙りこくるジェームズに差し出すと、重い動作で持ち上げられた手がそれを受け取った。 「でも、マリー」 出したままの杖で人数分のティーカップを呼び寄せていたマリーはゆっくりと振り返った。 「仕掛人のメンバーとして、サインぐらいはしてくれよ?」 「私の名前を?」 「まさか、ペンネームみたいなものをだよ、ミス・ピル」 いつものように快活に笑って見せたジェームズに、不服そうにマリーは眉間にシワを寄せた。 「やだよ、“毛玉(ピル)”なんて」 「可愛いじゃないか」 「シリウスはそうやって悪ノリする……」 いつも通りの笑顔で語りかけてくる友人達に安心する。 温めたカップにココアを注いでやりながら、マリーはしばし子供らしい感情に身を委ねて笑った。 今尚、忍びの地図には悪戯仕掛人たちの名前の中に、ミス・ピルの名前が並んでいる。 END