何かと来客が多いこの家は一人暮らしのわり皿数が多いため食器棚は結構大きなサイズだ。 その上に鎮座する白い箱をちらりと見上げる。さてさて、どんな反応をしてくれるか今から楽しみだ。 アマリアの背後でオーブンが完成を知らせる甲高いベルの音を立てた。 人数分の白い皿を並べて、焼き上がったハンバーグや野菜を盛りつけていく。 仕上げにフライパンの上で出番を待っていた目玉焼きを乗せ、ソースをかけて出来上がりだ。 野菜たっぷりのスープもよそい、リビングで髪を乾かしながらぎゃいぎゃい騒いでいた子供達を呼ぶ。 「メシだぞ、集合!」 「やったぁ!」 その声に一等先に駆け出したクザンに慌てて二人もダイニングに飛び込んでくきた。 すごい!すごい!とテーブルの上のごちそうに目を輝かせて完成を上げたクザンがイスに飛びつく。 「おれ、この席ね!」 クザンがそう言ってイスによじ上るのを手伝ってから、視線を向けるとその向かいの席に二人はお行儀よく着席した。 3人が席に着いたのを確認してからテーブルの真ん中にパンが沢山入った籠を置くとアマリアもクザンの隣の自分のイスに着席する。 よだれをたらしそうな顔でハンバーグを見つける子供達の意識をこちらに向ける意味でも、ぱんと手を合わせた。 「今日の出会いを祝して。いただきます」 それに慌てたように続いたサカズキとボルサリーノが姿勢を正して手を合わせた。 クザンも真似をするように両手を合わせる。 「いただきます!!」 揃った3人の声に「どーぞ召し上がれ」と応えて、アマリアは水差しに手を伸ばした。 わっとフォークを手にしハンバーグにかぶりついた子供達の、今はまだ知らないだろうテーブルマナーは今日ばかりは目を瞑ってやる。 口の周りをソースと、半熟に焼き上げた目玉焼きの黄身でよごしながらクザンはキラキラとした顔でおいしいを連呼している。 ボルサリーノは猫舌気味なのかはふはふと白い息を吐き出しながらハンバーグを食べているし、サカズキは無言のままごちそうだと言っていたとろりとした目玉焼きの黄身の感動に打ち震えていた。 性格でるなぁと心中で呟きながら、それぞれに水の注いだコップを置いてやるとアマリアもフォークとナイフを手に取った。 一口サイズに切ったハンバーグに少し潰した黄身を絡めてからパクリ。うん、上出来である。 アマリアの食べ方を呆然と見つけていた3人ははっとしたように自分の皿に向き直る。 その食べ方がおいしいだろう事を子供心に理解したらしい、ハンバーグにフォークで四苦八苦する彼らに小さく笑ってアマリアはパンに手を伸ばした。 「ごちそうさまでした〜」 その声にお粗末さまでしたと返してアマリアは笑った。まったくその小さな体のどこに収まるのだと言うくらい見事な食べっぷりだった。 テーブルに並べられた皿は綺麗にからで、あんなに沢山つんでおいたパン籠の中身ももう一つしか残っていない。 のこったら明日の朝食にでもと考えていたのだが、明日は明日でまた手を考えねばならないようだ。 幸せそうな顔で膨れた腹を摩っている子供達に、自分らしくもなくほっこりとした気持ちになりながらアマリアはクザンの口の端についたソースをナプキンで拭ってやった。 「さて、食後にお茶はいかがかな?」 背後のコンロでケルトが沸騰を知らせる音に席を立ちながら尋ねると、非常にふわふわとした声で「いるぅ」と声が返る。 茶葉を適当にポットに入れてお湯を注ぎ蒸らす為にカバーをかけつつ、食器棚から4つのカップを取り出した。 それから思い出したように棚の上を見る。 カップを手に振り返ると、ボルサリーノがいそいそと空いた皿を重ねサカズキに手伝ってもらいながらシンクに運んでいる所だった。 クザンは満腹のせいか眠気に襲われているようで、重そうに瞼を瞬いている。 こりゃあ今日は無理だったか、とサプライズで用意していたものを思い浮かべアマリアは頬を掻いた。 「アマリアさん?」 不思議そうな声で名前を呼ばれて、苦笑混じりに「なんでもないよ」と曖昧に応える。 その様子に怪訝そうな顔をした後、サカズキが先程アマリアが見ていた先を見上げて思い出したように「それ」と声を上げた。 一緒に買い出しにでていたサカズキは中身は知らないものの、アマリアが今日それを購入していたのを知っている。 「それなんなんだ?」 「あー…」 「なになに?」 クザンの目が好奇心に開いてこちらを見上げる。 3人からの視線を向けられアマリアは困って誤摩化すように苦笑した。 「実はな、せっかくだから奮発してみたんだよ」 逃げ場はあるまいと諦めてカップをテーブルに置くと、食器棚の上から白い箱を降ろす。 ボルサリーノ達が片付けてくれたテーブルの空いた場所にその箱を置く。 クザンはイスの上に立ち上がって興味津々に箱を見つめているし、他の二人もテーブルに駆け寄って箱のふたが開く事を待っている。 アマリアは中身を潰さないようにフタをそっと持ち上げた。 姿を現した真っ白なクリームで覆われたそれに、意外にも一番に歓声をあげたのはサカズキだった。 「ケーキだ!!」 年相応に顔をきらきらと輝かすサカズキにそんな顔も出来るのかと驚きつつ、それよりももっと驚いたのはクザンとボルサリーノの反応だった。 「これなぁに、しろくてきらきらしてる」 「甘いにおいがする……」 「お前等ケーキをしらないのか?!」 アマリアの気持ちを代弁した、同じく二人のケーキに対する反応の薄さに衝撃を受けていたらしいサカズキが目を剥く。 育った環境がここまで酷いのかとアマリアは頭を抱えたい気持ちになってくる。 「ケーキは卵たくさんつかったあまくてふわふわなパンに、牛の乳で作ったバターよりも白くて柔らかいクリームを塗ってあるんだ! それに砂糖と卵をたくさん使っているからとても高価なもので……記念日に食べるんだ!すごく甘いんだぞ!!」 ケーキを知らない二人にそう力説するサカズキに、こいつは意外に甘いもの好きなのかな?と思う。 サカズキの説明にクザンの目が再び輝き、高価なものというくだりでボルサリーノは青い顔になっている。 興奮するサカズキの肩をぽんぽんと叩いて宥めながら、ボルサリーノに一言フォローを入れておく。 「ケーキはサカズキの説明の通りだが、ここは卵も牛乳も簡単に手に入る場所だから。 サカズキの故郷のものよりはずっと安価なものだからな?」 こくこくと青い顔のまま頷くボルサリーノの横で、クザンがケーキのクリームに指をつっこんだ。 あー!と悲鳴を上げたサカズキを横目に指でたっぷりクリームをすくった指をクザンは口にくわえる。 「何やってんだバカ!!」 顔を真っ赤にして怒るサカズキの声は届いているのかいないのか、クザンは花を飛ばしそうな勢いで幸せそうに指を舐めている。ボルサリーノはそれを呆然とみつめていた。 「……うん。食べようか」 「うん!!!!」 元気な3人の返事にアマリアはほっと息をついて笑う。 食器棚から皿と小振りなフォークを出すと、ボルサリーノが手伝いをかってでた。 ボルサリーノには蒸らしたままになっていた紅茶をまかせ、ナイフを手にホールケーキに向き直る。 ケーキはシンプルにいちごの乗ったショートケーキだ。 小振りなそれを4等分にすると3つを皿に乗せてから、最後の一つを半分にして自分の分にする。 「食べて良い?!」 「行儀が悪いよクザン」 自分の目の前に皿が来た瞬間フォークを突き刺そうとしているクザンをボルサリーノが嗜めた。 サカズキに至っては黙ったままフォークを手にGOサインを待っている。 「どーぞ」 召し上がれと言う前に、クザンとサカズキは一口目を食べていてボルサリーノも慌てて口にした。 3人して花を飛ばしそうな顔でケーキに舌鼓を打っている。 買って良かったなぁと思いつつ、アマリアも自分のケーキにフォークを差し入れた。