「いやなぁ、自然系の能力者だってのは聞いてたんだが……」 クザンの能力でよく冷やされた玉ねぎをこねた挽き肉、調味料と混ぜ。成形したそれをトレーに乗せ備え付けのオーブンに入れる。ボルサリーノはその背中を半ば呆然と見つめていた。 「それが何か、って言われてないし。 そういや聞いてなかった、と今になって思ったんだよ」 ハンバーグが乗ったトレーの下に付け合わせのジャガイモなどの野菜を並べたトレーを入れ、オーブンのタイマーをセットしたアマリアが立ち上がる。 「それで何の実食ったんだ、お前ら?」 ボルサリーノにだってこの質問が今更過ぎる事は理解できた。 恐らくそれは、残り二人も同じ顔をしていたのだろう。 流石にアマリアもばつの悪い顔で頬を掻いた。 「……一番、大丈夫なことなんじゃないんですか?」 あの会議の場ではそうだった。 飛び交う言葉は、三人の能力とそれに対する期待と警戒。そればかりだったと思う。 「一番?居候の能力が何かっていうのが? 一番大事なのはそこじゃねぇだろう。子供を預かるのに聞かなきゃならんのは」 片眉を器用に跳ね上げアマリアは怪訝そうな顔で首を傾げた。 ぽかんと間抜けな顔で見上げる三人の表情に、よくわからんと鼻を鳴らすとアマリアは冷蔵庫の扉を開ける。 「能力者ってだけ知ってれば、とりあえず風呂は注意しないといけないから。 だからコングさんもそれは教えてくれただろ」 必要なものを取り出して扉を閉めて、取り出した材料をシンクに置いた。 鍋に水を入れてコンソメを投入するとフタを閉めたアマリアが不意に振り返る。 「あ、お前等風呂嫌いだったりするか?無理矢理つっこむのはわけないが、 流石にそこそこ育った男が保護者に風呂世話されんのは嫌だろ」 三人は思わず顔を見合わせた。 「おれは、ふろ、あんまり好きじゃない……」 「なので、無理矢理いれると、きっとクザンが風呂場を氷河に変えちゃいますよ」 「それは困ったな、溶かすのが大変そうだ」 「でもサカズキならとかせるよ!」 「……浴槽が溶けなかったらな」 「風呂場が大惨事じゃねぇか!」 3人の返しにカラカラを声をあげて笑うアマリアは、ザクザクとキャベツを切っていく。 「クザンはヒエヒエで、サカズキはメラメラ、それともマグマグか?」 「マグマグのほう。……悪魔の実に詳しいんだな」 「図鑑は暗記してる。敵さんの正体を見極めるのに必要な情報だしな」 どんなことがあっても冷静に判断出来ると言ったアマリアに、わずかに目を輝かせたサカズキに図鑑は本棚にあるぞとこちらも見ぬまま教えられた。あとで探して見よう。 「ボルサリーノは?」 「あっしはピカピカです」 「光か、早そうだな」 キャベツの次にタマネギ、にんじんを切って行くアマリアにクザンがにんじん嫌いとぼやいた。 「好き嫌いは許さん。絶対にだ。 それと念のため、3人とも基本能力は使用禁止だな、ここは寮だから追い出されたらたまらん。 ……ん?でも追い出されたら上がもう少し広いとこでも用意してくれるか?」 後半は独り言のように呟いてアマリアはあくどい笑みを浮かべた。 どうでしょうとボルサリーノは曖昧に笑う。コングはそれくらいしてくれそうだが、他はどうだろう。 切った野菜を鍋に投入すると鍋のフタをしめてアマリアは振り返った。 「出来上がるまで時間がかかるし、お前等先に風呂を済ませてしまえ」 「え〜」 「風呂場を冬島にはしてくれるなよ、クザン」 「がんばろうねぇ〜。それじゃあ、お風呂お借りします」 「おう、風呂場の場所はわかるか?」 「さっき見つけた!探検したんだ」 楽しそうな顔でアマリアを見上げたクザンの頭をもさもさ撫ぜて「そうか」と笑ってその背を押す。 足の重いクザンの手を引きボルサリーノは先程探検で見つけていた風呂場を目指した。 「サカズキ、これお前等のタオルな」 二人の後に続こうとした所を呼び止められてサカズキはふかふかのタオルをその手に抱えさせられた。 海軍本部にいた時に使っていたものなど比べ物にならないくらいに柔らかく、そして花のような良い香りがしてサカズキは思わず鼻先をそこに押し付ける。 その様子に小さく笑って「早く入っておいで」とタオルに顔をうずめて動かなくなったサカズキの背中を押して風呂場に向けた。 はやくーと急かすボルサリーノの声に答えて、サカズキは小さくアマリアに頭を下げてから歩き出す。 風呂場から三人の「なんこれやわらかーい」という声にアマリアは一人キッチンで吹き出した。