「それでは、アマリア中将。こいつらを宜しく頼むぞ」 コングの大きな掌に背中を押され、アマリアの前に出た餓鬼共三人に、思わず深い溜め息が出るのは仕方がない。 自分の背後に控える秘書の視線が怖い。確実に、何で仕事増やしてんの馬鹿なのこの大将馬鹿なのと言ってる。 全くもってそう思う、休暇命令しといて仕事増やすとか馬鹿なんだと思う。 「……了解だよ、コング大将」 不承不承といった感じで上官に形だけの返答をする。 それに男は困り顔で頭の後ろを掻いた。 「無理を言って悪いとは思っとる。 しかし、こいつらを普通の奴に任せることも出来んでなぁ……」 「言外に、私を普通じゃないと言わんで下さい」 「あぁ、そりゃスマン」 厳つい顔のこの男の妙なところの素直さにもう一つ溜め息を吐く。 「面倒を見るのは良いが、私は野郎には手厳しいですよ?」 睨み下ろした餓鬼共の目に怯えはない、胸糞悪くなるくらいの反抗的な目だ。 三人の餓鬼共はこの歳で幸か不幸か、自然系の悪魔の実を食らった能力者らしく。 それぞれの生まれ故郷で、その能力が悪用される前に海軍へ入隊を約束に保護させられたらしい。 彼らの情報はそれだけ。全てコングがたった今ここで話してくれた情報だけだ。 さらに最悪な共通点としては、戦乱や海賊の襲来。貧困により親を無くし、孤児としてここまで一人で生きてきたという逞しさと擦れ加減だ。確かに普通の奴なら、寝首掻かれて終いだろう。 (実際、私もあぶねぇだろうがな) アマリアの視線に気づいて「子供を見る目をしていないぞ」とコングは小言を挟む。 「お前の教育方針はわかっているさ、ガープとセンゴクの一件で俺も上も身に染みている。特にガープで」 「ガープは私は関係ないでしょう。彼奴は元から、ああだったと思いますが?」 「増長させたのはお前だと思うぞ俺は」 「いいじゃないですか、奴らの“正義”は悪くない」 「そういう問題じゃないと思うが……」 完全に困り顔の上官を、全ての仕返しと言わんばかりに鼻で笑ってやった。 「まぁ、いいですよ──休暇中は面倒見させていただきます」 「頼む。」 そう言い残して、大将という立場上忙しいコングは慌ただしく退室していった。 アマリアはそれを見送ると、秘書に子供達用の飲み物と自分の珈琲を頼み、小さく溜め息を吐いてから三人の糞餓鬼に視線を戻す。 「ってことで、これからしばらくお前らの保護者になるわけだが。 私は基本放任主義だ、悪く思うなよ?」 彼らの親のように振る舞うことは出来ない、それだけは確かだったので先に釘を指しておく。 まぁ、女っ気がなく傷だらけで包帯だらけの女中将に、母を重ねてみるような可愛げが彼等にあるとは思えないが。 「家と飯と寝床は用意してやる。 それ以外に──お前らが望むものはあるか?」 そう彼等に質問を投げ掛けた時、その表情に変化があった。 「強くなりたい」 「勉強がしたい」 「世界を知りたい」 三人から急くようにそれぞれ口から出た言葉に、アマリアに思わず笑みが溢れる。 まだ、生きる為に必要な“夢”だけは持っていたことに少しばかり安心した。 「わかった、わかった。 強くなるには、まずそのもやしのような体に肉をつけてからだ。 勉強と世界はすぐに教えてやろう」 「あんたが?」 「他に誰が?」 驚いた顔をしたクソ餓鬼共に、「当面は私が保護者だ諦めろ」と笑う。 「この世は本当に、どうしようもないもんだ」 見上げた額面には、自分が掲げる筆致と全くあっていない“どうしようもない正義”の文字がある。 「正義もな──受け入れることだ」 人一倍、目付きの悪い子供がぽつりと呟いた。 「──名前」 「あぁ?」 「何て呼べばいい──世話に、なる間……」 歯切れ悪くつぶやいた言葉にぱちりと瞬きをした後、声をたてて笑う。 「あぁ、悪い。そう言えば、名前を言うのも聞くのも忘れていた」