4人でーーとはいえ、背後に秘書は控えていたがーー何とも奇妙なティータイムをしながら、アマリアはデスクに散らばったペンやインク、判子を鞄に詰め込んだ。 秘書が淹れてくれた珈琲を飲み干し、三人のカップが空なことを事を確認してから立ち上がる。 「そろそろ出るが、いいか?」 問い掛けにそれぞれ頷くと、掛けていたソファから立ち上がった。 側に控えていた秘書を振り返りながら、荷物を詰め終えた鞄を肩にかける。 「今日は上がる。明日から、書類の宅配をよろしく頼むな」 「はい。 あ、そちらの鞄も置いていって下さっても構いませんよ? 書類処理に必要なものでしたら、明日一緒にお持ちします」 「あー……頼む」 肩にかかる重さに体があげる悲鳴に従って鞄を下ろすと、秘書は小さく笑った。 「それに、預けっぱなしにしておきますと中将、休みなく働きそうですし」 「……はははは」 既に読まれているらしい行動に、否定も出来ずに笑って誤魔化した。 「さて、行くかー」 とりあえず荷物から財布などの貴重品を取り出し、ポケットに突っ込みながら歩き出した背中を三人の子供が続く。 お気をつけて、と背後からの秘書の言葉に後ろ手にひらりと手を振って返した。 本部の廊下を闊歩しながら、頭の中で今後のことを考えていく。 独り暮らしの部屋には、餓鬼共を預かるには足りないものがありすぎる。 それに餓鬼共の手には荷物らしい物はないし、着てるというよう着させられたサイズの合っていないお下がりらしい服。 考えれば考えるほど、これから忙しくなることは確実で、それらは一旦頭の隅へと追いやった。 「やらなきゃならんことは山程あるが……とりあえず、あれだ」 「?」 きょとりとこちらを見上げた三人を見下ろして、にやりと笑って見せる。 「お前らの歓迎会といくか」 幸い、今回の昇格のお陰で懐は温かい。 何が食べたい?と聞きながら歩き進んでいると、不意に足に重さがかかる。 「肉!!あと魚!あとあと」 「あー落ち着け」 歩く足にしがみついて訴えるクザンをこのままに歩くのは危険だと判断し、首根っこを掴み上げ抱き上げる。 えっと、えっとと指折り数えながら食べたいモノを挙げていくクザンを横目に、黙ったままの二人に視線をやる。 「お前らは?」 「……腹が膨れればいい」 「あっしも、食べられれば何でもいいですよ」 可愛いげのない二人の返答に、もう少し素直になればいいのにっーかなれ、と口にしかけて飲み込み心中深い溜め息を吐いた。 「なら、とりあえずクザンのリクエストを聞くかね……。 そうすると肉か、魚か」 わーいとはしゃぐクザンを抱え直しながら、僅かに傷んだ肋に口をへの字に曲げる。 それに目敏く気付いたボルサリーノが目を細めた。 「その怪我、大丈夫なんですか……」 「ん? あぁ……まぁ、しんどい。 今回は、ある意味これの治療の為の休暇だからな」 やり合ったのはルーキーとは言え、自分よりも格上の相手。正直命があっただけマシ、と言う所だ。 触れた脇腹の包帯の下は、下から肋を絶つように入った斜めの刀傷が、まだふさがらないままに熱を帯びずきずきと痛む。 「……迷惑は、かけないようにしますから」 小さく呟かれた言葉に、思わず片眉を跳ね上げた。 「そう言った遠慮はいらなねぇよ。 まぁ……気にかけてくれるんなら、手を貸してくれりゃ助かる」 低い位置にあるボルサリーノの頭を撫ぜると、小さく「はい」と返事があった。 それに小さく口の端を緩めながら、ふと開け放ったままの窓に視線を流す。 今いる本部は、マリンフォードの中で住居区よりも高い位置にある為、三日月形の湾頭に沿うように立ち並ぶ街並みが見渡せる。 「──お前ら、この街に来てから外は見たか?」 「軍艦降りてから、ずっとここにいるよ」 質問にはクザンが答えてくれた。 ふぅん、と呟いてアマリアは口の端を歪める。 「じゃあ、近道がてら──マリンフォートの“空中散歩”としゃれこもうか」 「……え?」 腕に抱いていたクザンを肩車し直すと、二人の体を小脇に抱え上げる。 きょとりとこちらを見上げる二人に、にやりと意地悪く笑ってみせた。 「しっかり捕まってろよ」 「え、ちょ、ここ3階──」 子供達の困惑を無視して、軽い助走をつけて窓を飛び越えた。 「ぎゃああああ!!」 「ぅおおおおお?!」 「っ……!!」 「はははははっ!」 重力に従っての落下に三者三様の反応に声をたてて笑いながら、からかうのもここまでと足に力を込めた。 「“月歩”」 爆発的な脚力で踏み込み圧縮された空気を蹴り上げ、宙に飛び上がった。 ボウン、ボウンと空気を蹴り上げる音をたてながら、階段を上るように上昇していく。 体を強張らせ目をぎゅっと閉じたままの三人に、「目を開けてみろ」と言い聞かせる。 「いつまで目を閉じてるつもりだ。見てみろ、すごいぞ」 「──……」 頬を撫ぜる風に促されおそるおそる瞼を上げた三人の目の前に広がるのは、 眼下にマリンフォードの街並みと、見渡すばかりの海。 「わ──……」 きらきらと光を浴びて輝く海、煉瓦造りの街並み。 ふと横を見ると、自分達のすぐ脇をカモメがするりと飛んでいく。 「すごい、きれい……」 クザンがぽつりと呟いた言葉は風に流れた。 三人それぞれが食い入るように移り変わる景色を見つめている中、“月歩”で本部の敷地を出ると、住居区に向かってゆっくりと高度を落としていく。 「ほら、あそこ。赤い屋根のアパートがあるだろ? 彼処が、お前らがしばらく暮らす家だ」 「ふぅん」 迷子になったらあの角の郵便局を目印にしろよ、と言いながらアパートに足を向ける。 「独身寮だからな、手狭で部屋は少ないんだ。個人の部屋は我慢してくれ」 「屋根があれは、大丈夫だよ?」 不思議そうなクザンに、今まではなと苦笑を溢す。 「さぁ、降りるぞ」