ガラリと開いた浴室の戸。 乱入者を睨むように振り返ると、予想外の人物にジーナは思わず微かに目を見開いた。 「背中でも流してやろうかい?」 にやりと笑うマルコに、浴槽の縁に置いた腕の上に顎を乗せながらジーナはふんと鼻を鳴らした。 「風呂嫌いの能力者が何言ってんだか。──で?どうかした?」 浴室の入口に立ったまま入ってこないマルコに、既に先程の言葉は冗談だとわかりきっている。 こちらのあまりにもあっさりとした反応に、つまらんとばかりに腕組みしたマルコが「あぁ」と小さく頷いた。 「近くに海軍の軍艦が来ている見たいでな、ちょっくら一飛びしてくることになった」 “白ひげ”に理由もなく喧嘩を売ってくる海軍もそういないが、時折こちらの存在に気付かず不用意に射程距離内に入ってくる不運なものもいる。 そう言った輩をある程度減らすため、警告の意味を込めて不死鳥の姿を見せるのだ。 近くに白ひげがいるぞ、と。 「そう。いってらっしゃい」 流石にこの警告行為に着いてはいけない──二人で行った場合、警告ではなく攻撃の意思ありと判断される可能性があるためだ──ひらりと手を振ると不意にマルコが浴室まで入って来た。 「……いつものやつはどうしたよい」 浴槽の側まで来たマルコがしゃがみこみ、視線を合わせて拗ねたような表情でそんな事を言うものだから、そこでジーナはようやく合点がいった。 「ふふ……それでわざわざ、来たの」 思わず小さく笑いを溢し、濡れた髪を耳にかけながら首を伸ばしてそっと、尖らせたマルコの唇に触れる。 水に弱い能力者を弱らせないため、唇だけちょんと触れただけのそれにマルコは十分満足げだった。 「当たり前だろい、こりゃあ儀式みてぇなもんだからな」 真面目な顔でそう言うマルコに、声をたててジーナは笑う。 「いってらっしゃいのキスが?」 「仕事にハリがでる」 「やっすいなぁ」 「お前からキスをしてもらえるからな」 軽口を言い合って今度はマルコから唇を重ねた。 それから額に張り付く髪を指先でよけ額にキスをすると、マルコは立ち上がり浴室を出ていく。 「早く帰ってきてね、ハニー」 「ベッドを温めて待ってろい、ダーリン」 振り返りにやりと笑った顔が曇りガラスの向こうに消えた。 (初掲載:2015.4.7)