言うなれば、大噴火。 そう言えば、そんな能力を持った海軍大将がいたなぁとエースは遠い目をしながら現実逃避をする。 「ば…っ!エースあぶねぇ!!」 そのせいで、範囲内に居たままだったエースは見事に被害を受け昏倒と相成った。 顔面に椅子が激突して昏倒したエースに、えげつねぇ……覇気を纏わせていやがる……と、恐怖にうち震えた声が誰ともなく呟かれる。 イゾウは食堂のど真ん中に仁王立ちするジーナの背中と、それに対峙する女達を見やり深く溜め息を吐き出した。 (よりにもよって、マルコがいない時に……) ああなってしまえば、ジーナを止められるのは親父かマルコしかいない。 後者については、近くに来ていた配下の船をこちらに案内する為出ていて、いつ戻ってくるかわからない。 イゾウはそばにいた隊の部下に、すぐに親父を呼んで来るように指示を出すと、後はどうにでもなれと腕を組み傍観の構えをとった。 「止めないのか、イゾウ」 隣からの言葉に思わず眉を跳ね上げる。 「あぁ?当たり前だろう、悪いのはあっちだ。お前だって動かないんじゃないか、ジョズ」 「まぁな……それに、無理だろ」 「そうさ、私らには無理だよ」 親父が来るまで同じように傍観をすることにしたらしいジョズと並んで、イゾウはふんと鼻を鳴らした。 「下手にでてりゃあ……図に乗りやがって」 地を這う声とは正しく、覇気を纏ったままの声は腹の奥を震わすような恐ろしさを持っていた。 そこに立っているだけだと言うのに、対峙する女達はガタガタと体を震わせている。 一応“まだ”家族だ、可哀想にぐらいは思うが、やっちゃいけない事の判別がついていなかったのが悪い為、この場で彼女等を擁護する者は誰もいない。 「餓鬼じゃあるまいに、越えちゃイケねぇい一線もわからねぇのか!!」 なぁ、おいと吐き捨てながら、ジーナは食堂のテーブルに拳を打ち付けた。 ヒィと、か細い悲鳴が上がり、一人を残して女達が腰を抜かす。 「航海の中、一番やっちゃいけねぇのは“命の糧”に対する冒涜だ……」 食堂の床には今日の夕食が散らばり、覇気を発するジーナの頬を伝うのは汗ではなく海王類で出汁をとったスープだ。 マルコがいない事をいい事に、未だ粘る戦闘員をメインとした女達の一群は夕食中のジーナの前に現れた。 あとはいつもの通り、一方的な嫌味をジーナが淡々と聞き流すだけ。 そのうちの一人がジーナの反応に勝手にキレて、側にあったスープ皿をジーナの頭の上でひっくり返したのだ。 静まり返った食堂に、次の瞬間溢れんばかりの覇気が満ちた。 「あつまさえ、この船のコックが──サッチが作った料理をぶちまけるたぁ、どういう了見だ?」 サッチの料理に何しゃがる、そう低く唸る声にジーナの後ろでオロオロしていたサッチは目を見開いた後、僅かに困ったような苦笑を浮かべた。 彼女の逆鱗は、自分自身に関することじゃない。 ほぼ、親父や家族に対することばかりだ。最近、そこのに“嫁”という項目が追加されたが。 「あのな、お嬢ちゃん等。私が今までアンタ等に何もしなかったのは、矛先が私だけだったからだ」 冷めた色を帯びる瞳に見下ろされ、女達は息をするのもままならない。 「だがな、だがこれは許しちゃおけない。 アンタ等は何の罪のない、サッチの料理を無駄にした──あぁ、その前はマルコから貰った煙草もダメにしてくれたよなぁ」 なぁ、と優しく語りかけるような声色と真逆に、ゆるりと弧を描いた唇と瞳は表情と真逆の感情を伝えてきた。 「それにアンタ等は、私にマルコを奪ったとか何とか言うが──当たり前だろう、私達は海賊だぞ」 立ち尽くす女達にゆっくりと歩み寄り、その目の前に立った。 「欲しいものは、必ず手にいれる。私はそうした、ただそれだけだ。それをとやかく言われる筋合いはない」 ない、と強い否定を口にし、唯一立っていられた女の胸を指先で小突いた。 「私に口喧しくする以前に、マルコを取り返す為に何かしたのか? 何もしてねぇで、あの男が手に入るなんて思うな。マルコは、そんな安い男じゃねぇんだよ」 ぐっと顔を近づけて、ジーナは冷笑を浮かべて女を見下ろした。 弧を描く赤い唇がゆっくりと囁く。 「欲しいんなら本気で来いよ──渡すつもりはねぇがな」 ジーナの冷たい瞳から目を反らせないまま、顔を真っ青にした女はガタガタと体を震わせ、そうして糸が切れたように座り込んだ。 「──処罰は各々の隊長から下されるのを待て」 それを見下ろして最後にそう吐き捨てて踵を返したジーナは、きょとりと目を瞬かせた。 「何、マルコ帰ってたの?」 先程までの覇気をどこへやら、おかえりとにこやかに笑うジーナに、顔と言わず全身を真っ赤にさせたマルコが「おう」と今にも泣きそうな声で応えた。 「随分と愛されてるじゃねぇか」 グラララと部屋を揺らすような大きな声で親父が笑った。 END 「ちょっとマルコ、大丈夫……?」 「ジーナからの熱烈な告白に、キャパオーバー起こしていやがる……」