どたどた。 ばたばた。 ぎんぎーん。 「──……騒がしいな」 書き物をしていた文机から顔を上げ、何やら慌ただしい部屋の外へと視線をやる。 昼の陽気に開け放っていた戸から見える庭と、くの玉教室と忍玉教室の境である壁越しに、慌ただしい人影と暗器と煙が見えた。 (何かあったのか……?) 既に今日の授業は終わり、生徒達は委員会の仕事をしている筈だし、6年生の自主練ともどうにも違うようだ。 一応様子を見てくるか、と筆を置き立ち上がる。 「あ、クジラ先生!」 庭に出て壁に向かっていた足を止め振り返ると、くの玉達が心配そうな顔で廊下にいた。 「先生、忍玉教室の方に曲者が入ったみたいなんです!」 「あー…曲者か、なるほど」 騒ぎの原因にようやく合点がいき、思わず口の端を引攣らせた。 曲者、と称される人物はここ最近特定される一人しかいない。おまけで稀に追加の曲者が増えたりはするようだ。 「確か、タソガレドキ忍者の組頭だったな」 「そうなんです!」 「すごく怪しい人なんでしゅよ!」 「怪しいのか」 正直、曲者の話は山田先生達からの話でしか聞いたことがなく、実物がどんなものかクジラは知らない。 「何でも、全身火傷を覆っているから包帯だらけで、さらに覆面しているんですって!」 「しんべい様が乱太郎様に聞いた話だと、子供が好きだって」 「………」 おしげの話す後者に僅かな犯罪臭がするのだが、大丈夫だろうか。 「ねぇ、先生──くの玉教室に来たりしませんよね……?」 不安そうな生徒の表情に小さく息を吐くと、安心させるように緩く笑って見せた。 「くの玉教室には一歩も入れやしないさ。 待っていなさい、今すぐ不能にしてくるから」 さて、と踵を返すとその場から軽い跳躍で塀の上まで飛び上がり、さっさと片付けようかと騒ぎの中心に向かって走り出した。 「流石先生、すごい!」 「でもすごい怖い!」 「不能って、どっちの意味でしゅかね?」 「おしげちゃん、そこあまり深く突っ込んだらダメよ」 背後できゃっきゃっとした生徒の声を聞きながら苦笑を溢しながら、飛んできた暗器を指先でキャッチし、一番近くにいた生徒の後ろに下り立った。 「曲者は?」 「うぉわっ!!?」 飛び上がらんばかりに驚いた生徒は勢いよくこちらを振り返り、こちらが誰かわかるとホッと息を吐いた。 「クジラ先生!脅かさないでくださいよぉ!!」 「気配消してるわけじゃないんだから、気付かなきゃ」 ぐっと言葉に詰まった生徒の肩をぽんと叩いてやりながら、クジラは辺りを見渡す。 「それで?」 「保健室で見付けた曲者は、潮江先輩が追っています。恐らく西側に向かったんだと」 「そう」 生徒の答えに小さく頷いて、先程手にした暗器をくるりと回す。 そのまま後ろも見ずに背面の塀に向かってそれを投げ付けた。 しかし、キンッと硬質な音をたててそれは弾かれる。 「その曲者、何故かここにいるみたいだけど?」 振り返った先で、塀の上に座る忍装束の男が唯一包帯から覗く隻眼を細めて笑った。 「見ない顔だね、新任の先生かな?」 「お初にお目にかかる。お前が件の曲者か?」 問いには答えず逆に問い返せば、男は愉快そうに笑う。 「そうだとしたら?」 からかうような応えに、懐に忍ばせていた自分の暗器を手にする。 「命まではとらない──ただ、子供達の確かな安全の為、不能になってもらおう」 「ん?」 「優しくしてやるよ」 「んん?」 未だ理解が追い付いていないらしい男に、そう嘲笑うように吐き捨てて狙いを定めて振りかぶった。 のちに、生徒から恐れられる“金的大戦争”の幕開けであった。 ──── 最悪の初対面)