「やぁ」 にっこり弧を描いた隻眼と白い包帯が、手にしていた蝋燭の光に暗闇から浮かび上がる。 くの玉長屋にまで、ついに曲者現れた。よもやこいつ、ロリコンではあるまいな。 「どうも、こんばんは」 「何しに来やがった」 「んー、遊びに?」 男がそう言って笑う顔は、夜目が利くせいで憎たらしいほどよく見える。 普段、忍としての仕事が手透きになると保健室に良くいる男(警備的にかなり問題がある状況である)が、こんな夜更けに何事かと目を細め睨み上げる。 「くの玉に手を出したら、不能にしますが?」 「えーまだ頑張りたいからやめてね。というか私、ロリコンじゃないけど」 幾らなんでも子供に手は出さないよー、と言う言葉を疑わしい目で見やる。 その上、長屋の見回りがまだ終わってないので、こんな曲者に構ってられないのだから(いやいや、見回りって曲者見逃しちゃいけないでしょ)廊下に立つ男の脇をすり抜けて先に進もうとして立ち止まる。 視線を落とせば、寝間着の袖を掴む指先が見えた。 首だけで後ろを見やれば、男の笑みが予想より近くにあった。 包帯の隙間から、月光に照らされた火傷傷が見えるほどに近く、男の目が笑みに細められた。 「夜這いに来たの、君のところに」 囁く低く甘い声に、さらに目を細める──。 「不能になるか、迎えに来た部下と帰るか──選ばせてやろう、タソガレドキの忍よ」 返事は低く唸るように呟き、自分より背の高い男を睨み上げる。 「えー、相手してくれるんなら布団の中がい゙っ」 膝は男の股間に直撃した。くの一、なめんなよ。 股間を抑えて撃沈した背中を一瞥し、長屋を囲む塀を見上げる。 「諸泉君、回収」 「組頭がご迷惑をおかけしました……」 塀の上から顔を覗かせた男の部下に深い溜め息を吐き出した。 ──── 加速する誤解