01


眼前に広がるのは一面の白。

音もなく、温度もないぼやけた光景に何かを捉えることは出来ないでいた。何かに触れようと、手を伸ばして見るものの何もなかった。誰かを探そうと振り返ってみても、さっきと同じ景色が広がるだけだった。

「ここは・・・」

ここがどこで、どうしてここにいるのか、私には全く見当が付かない。
私が私自身について思い浮かぶのは、ごくわずか。

「王直属の神祇官。豊穣と安寧を祈る役割。名前は、●●=クラシス」

口から出る情報量の少なさに視線を落とした。
自分が誰から生まれて、誰に育てられて、誰とどこで生きていたのか。それすら分からなかった。目を閉じ、懸命に脳内を探してもどこにも見当たらなかった。

「はぁ・・・・・」

目を開け、再びあたりを見渡しても景色が何か変化することもなかった。ただひたすらに白が広がっているだけだった。

「誰も、いない・・・」

これは先程から頭の中で認識していた事だった。でも、口に出すことで自分の耳に入り、より深くそれを認識させられた。自分にとってはただそれだけのことだった。

「な、んで・・・・・私」

目の奥がかあっと急に熱くなったかと思えば、涙が止まらなくなっていた。止めようと必死に拭っても、止まれ止まれと言い聞かせても無駄だった。

「なんでこんなに、私、苦しくて、悲しくて、寂しいんだろう」

3つの感情が私の心の中をかき乱し、涙をあふれさせていた。でもこれは自分の感情のようであって、自分のではないような気がしていた。自分の心の奥底から、自分が認識できる意識のもっと内側からあふれ出ているような感覚。自分で今の状況を把握しようとする思考回路が全て感情に飲み込まれていく。

「嫌、嫌!ここから、出ていかなきゃ・・・・っ!」

いつの間にか恐怖を感じ、私の足は走り出していた。走っても走っても変わらない景色が恐怖を増長させる。
追手が来ているわけでもないことは自覚していた。だって何の音も気配もしない。けれど、それでも恐怖は収まらず、足を止めることは出来なかった。

私はただがむしゃらに走り続けた。



「嫌、嫌だ・・・・こんなとこーーー!」



突然、ごつん!とおでこに痛みが走った。

「わっ!」
「え?」

確かにおでこはいたかったけれど、自分以外の声がしたこと、目の前の景色がガラッと変わっていたことに意識が行っていた。音も、温度もある、はっきりと感じることの出来る空間。自分が今ここに存在していることが自分の五感を通して実感できる。今自分が座っていること、暖かな布に包まれていること。今私はどこかの誰かの部屋にいるようだった。私以外にも人がいる。

「びっくりしたー」

そういっておでこを押さえて笑っている男性はおそらく、さっき私を頭をぶつけた人だろう。まるで金が織り込まれた糸のような、そんな金髪の男性。瞳は透き通った空のように青くまるで宝石のようだった。
部屋の片隅には黒髪の男性が座っていた。紅蓮の瞳で私のことを静かに凝視していた。ぶっきらぼうな雰囲気を惜しげもなく出しているなーなんて見ていると、何か気に食わなかったのか睨まれてしまった。
私はとりあえず、少年と称するような年代の男の子に視線を移した。茶色い髪とそれとよく似た色の瞳を持つ少年は、私の視線に驚いたのかぴくっと体が震えた。純真なその反応に私はほほえましいなと、勝手に思ってしまった。
その少年の膝元、私の隣には少女が眠っていた。今にも息が途切れそうなほどで、青ざめた顔をしていた。
私がその少女に視線を移したのと同時に少年も同じように視線を少女に向けた。その視線は愛おしい人をまるでいつくしむような、それでいてどこか悲痛だった。

「ぷう!」
「うっわ!!」

いきなり顔面に何かが飛び込んできた。私は驚きのあまりバランスを崩して後ろに倒れてしまった。すると体の上に何か乗ってきた。それは私の顔を覗き込んできた。

「モコナもいるよ!」
「モコナ?それが名前?」

私の問いに、モコナは嬉しそうに大きく頷いた。モコナはやわらかそうで、無意識のうちに手を伸ばしてなでていた。それをモコナは快く受け止めてくれた。私はそれが癖になり、上半身を起こして無我夢中でモコナに抱き着いた。

「モコナー!可愛いし柔らかいし気持ちいいよー!」
「きゃ!」
「そう言えば、自己紹介がまだだったよねー」
「自己紹介?」

私がモコナから顔を上げると、金髪の男性はこくっと頷いた。

「オレはファイ=D=フローライト。長いからファイでいいよー」

ファイと名乗ったその人は、少し距離を詰めてじっと見つめるので私は少しドキッとしてしまった。
よく見なくても整ったその顔に近くでじっと見られるのには私には耐性がないようだ。すぐさま視線を外した。

「おれは小狼です。こちらが、サクラ姫です」
「で、そっちの黒いのがー・・・」
「黒鋼だ!黒いのじゃねぇ!」

服装もバラバラ、一見性格的にも合わなさそうな人達だなーなんて思うのに、不思議と楽しそうなんて思った。

「私は●●=クラシス。●●が名前なの。そして、王直属の神祇官です」



ところでどうしてこんなことになっているのか、と聞こうとしたものの、ファイの突然の行動によって遮られた。


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