02

何と突然、ファイが何の前置きもなく小狼の背中辺りをごそごそと触り出したのだ。

私含めその場にいたファイ以外の全員が驚いた。触られている当の本人、小狼に至っては「うわ!!」と大きな声を上げた。

「これ、記憶のカケラだねぇ。そこ子の」

小狼の背中から手を引っ込めたファイの手には白い羽があった。淡く暖かな光を放つそれには、桃色の紋が入っている。
とても綺麗でつい見入ってしまい、すっと近づいた。

「君にひっかかってたんだよ。ひとつだけ」
「あの時、飛び散った羽根だ」

小狼はファイの言葉に思い当たる節があるようで、はっと目を見開いた。

「この羽根、綺麗・・・」
「何か感じる?」

左隣から投げかけられた私へのファイの質問はどこか意味深長に聞こえた。けれど私にはどういうことか分からず首を傾げた。
ファイが記憶のカケラと言ったその羽根はまるで意思があるかのように、ふわっと浮き上がった。そしてサクラの胸元へすうっと解けるかのように吸い込まれていった。

「これが、さくらの記憶のカケラ」

小狼とファイの言葉から推測するにこのサクラという少女には記憶がないのだろう。そして記憶がないせいで顔色が悪いみたいだ。記憶と躰というのは密接に関係しているんだろう。

羽根が完全に消えるとサクラの顔色が良くなっていった。

「体が・・・・暖かくなった」

小狼は安どのため息をついた。その表情も柔らかくなり、笑みをこぼしていた。小狼にとってサクラの存在はよほど大切なものなんだろう。小狼の言動、行動のひとつひとつから見て取れる。

「良かったね、小狼」
「はい。おれの服に偶然ひっかかってたから・・・」
「この世に偶然なんてない」

怒っている口調でも、諭すような強い口調でもなかった。けれどファイのその言葉とその声色に、私たちの視線はファイ一点に引き寄せられた。一瞬だけ、その場の空気がぴんと張り詰めた。

「って あの魔女さんが言ってたでしょー。だからね、この羽根も 君が無意識に捕まえたんだよ。その子を助けるために」
「無意識に捕まえてたなんて、小狼すごい!」

いくら大切な人のためとはいえ、無意識のうちにそんなこと出来るなんて並大抵のことじゃない。

「●●の目、キラキラしてるー!」

モコナが軽快に飛び跳ねた。

「だって無意識のうちに、なんてすごいよ!ほんと!」

私の言葉がストレートすぎたのか、小狼の頬が少し赤くなったような気がした。

「●●ちゃん、何か変わってない?」

首を傾げてファイがこちらを見てきた。私は思わずそれに引っ張られるように首を傾げた。

「どういうこと?」

小狼と黒鋼からも視線を感じる。けれど私の問いには返答はなかった。

「んー、ま、とりあえず、これからはどうやってどうやって探そうかねー。羽根」

ファイは思案するように天井を仰いだ。なんだか話をそらされてしまったような気がする。

「探す?」
「うん」

ファイたちはみんなサクラの羽根を探し回っているのだろうか。いや、言い回しから推測するに正確には「羽根を探す」のは「これから」らしい。しかも、さも当然のようにその一員に私も含まれているようだった。

「はーい はいはいっ。モコナ分かる!今の羽根、すごく強い波動を出してる。だから近くなったら分かる」
「教えてくれるかな。あの羽根が近くにあった時」
「まかしとけ!」
「・・・・ありがとう」

モコナは満々の笑みで小狼の言葉に同意した。そんな嬉々とした雰囲気に、さも興味ないような声色が投げられた。黒鋼だった。

「おまえらが羽根を探そうが、探すまいがは勝手だがな、俺にゃぁ関係ねぇぞ。俺は自分がいた世界に帰る。それだけが目的だ。おまえ達の事情に首をつっこむつもりも、手伝う気も全くねぇ」
「はい。これはおれの問題だから、迷惑かけないように気を付けます」

小狼は黒鋼の言葉に置くすることも落胆することもなかった。そんな黒鋼は小狼の反応が予想と反していたのか、調子が狂ったと言わんばかりに小さく舌打ちした。黒鋼より小狼の方が一枚上手だったようだ。

「そっちはどうなんだ」

これ以上自分に視線が向くのが嫌なのか、黒鋼はファイに質問を振った。

「んん?」
「そのガキ 手伝ってやるってか?」
「んー、そうだねえ」

これは真剣な問いである筈なのに、答えを求められている当の本人、ファイの表情も口調も、全くと言っていいほどに真剣みが感じられない。悪気はないのだろうが、これでは気が抜けてしまいそうになる。

「とりあえずオレは元いた世界に戻らないことが一番大事だからなぁ。ま、命に関わらない程度のことならやるよー。ほかにやることもないし」

ひょろっとした笑みを浮かべ続けるファイから黒鋼は視線をずらし、私に向けられた。

「てめぇはどうなんだよ」

正直、返答に困る。私を除く人たちはこの状況を理解して飲み込んでいるようだったけれど、私は違う。失礼かもしれないけれど、小狼の話題で振られているにもかかわらず、手伝う手伝わないの前に聞きたいことが山ほどある。

「●●ちゃん、どうしたのー?」

黙ったままの私が気になったのか、ファイが私の顔を覗き込んできた。どうやらファイは人との距離の詰め方が急激すぎる。私は驚いて一歩のけぞってしまった。

「いや、私、手伝う手伝わないとか答える前に、きちんと聞いておかないといけないことがあって」
「聞いておかないといけないことー?」
「これ、何の集まり?」

私の質問がどこか変だっただろうか自分にはわからないけれど、ファイたちは一瞬、固まった。
私にはこの集まりがひどくちぐはぐに思えた。身に付けている衣服に一切の統一感がない違和感があるのに、「さくらの記憶のカケラ」と呼んでいる羽根を気にかけているので全員で探しているのかと思えば、それぞれ「目的」は異なるようだった。すごく絶妙な距離感を感じる。


「寝ぼけてんのか?」
「寝ぼけてない!起きてるってば!私本気で言ってんの」

私も本気で言っていたが、黒鋼も本気で私が寝ぼけていると思っているらしい。黒鋼は一見クールに見えるものの、表情はコロコロと変わり、分かりやすい。

知っているなら教えて欲しい、そう言おうとした時だった。



閉まっていた扉から男女が入ってきた。男性は「よう!」と軽快に挨拶をしてきた。



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