比較対称は見世物

文久三年十二月

浅い夢から目を覚ます。
瞼を開けたそこにあるのは今まで見たことも無い空間、逃げることを許さない現実だった。身体の自由を奪う縄が、体を締め付ける痛みが昨晩の出来事を鮮明に脳内に描きだす。

「・・・・」

訳の分からない物体に襲われそうになったかと思えば、次は新選組に訳も分からず屯所まで連れられて、ここに拘束されて一晩を過ごした。ここに連れてこられたときにはとうに完全に抵抗する気を失っていたので、大人しく縄で縛られるのを黙って見ていた。
「また明日」といって向けられた沖田の微笑みが脳裏に過る。

「・・・・」

規則正しい寝息が聞こえる方へ視線を向ける。
そこには昨晩、新選組に連れられ、自分と同じように体の自由を奪われて布団の中で眠る少女がいた。見たところあまり自分と年の変わらないように見えた。捕えられて縄で縛られているというのにこうもぐっすりと眠っているあたり、少女の肝は据わっているようだ。しかし、すぐに視線を何もない畳の上に落とした。

「ええと・・・」

その声に視線を上げると、先程まで寝ていた少女が何か困惑したような表情を浮かべてこちらを向いていた。

「あ・・・・あの・・・わたし、雪村千鶴と言います」
「そう」
「・・・・・」
「・・・・・」

千鶴が、名は女なのに自分が男装していることに戸惑っているということを察す。
しかし、唯花はそれについて説明しようとなどしない。
男装をする少女、千鶴にその理由を尋ねることもしなかった。もはや、気にもしなかった。
あくまでも沈黙を貫く彼女に千鶴は背筋が張る緊張を覚えた。

「・・・これから・・・わたし、どうなるんでしょうか・・・」

独り言なのか、それとも問いかけなのか微妙な口調と音量で呟く千鶴。視線を畳に落としたまま、それに彼女が返答をすることはなかった。
沈黙が流れた後、閉じられていたゆっくりと襖が開く。そこから人の良さそうな中年の男が顔を出した。

「ああ、目が覚めたかい」

その人物は昨夜の隊士たちとは違い、温厚なようだ。井上と名乗ったその男は少しの謝罪をすると、苦笑しながら自由を奪う縄を緩めた。その行動に「ありがとうございます」と戸惑いながらも律儀にぺこぺことお辞儀をする千鶴。それにほほえましそうな表情を見せた井上。

しかし、そんな場面の一角に居ようとも彼女が同じような行動に出ることはなかった。未だに畳から視線を上げようとしない。

「ちょっと来てくれるかい。今朝から幹部連中で、あんた達について話し合ってるんだが・・・あんた達が何を見たのか、確かめておきたいってことになってね」
「・・・わかりました」

そう素直にうなずく千鶴。

その隣の彼女は表情一つ変えなかった。その代わり、立ち際に鋭い一言を言い放つ。

「選択の余地も無い選択など提示するな」

放たれた彼女の言葉の中に感じ取った何かが井上の体をこわばらせた。

(・・・捕えているのにそれに選択肢など与える者がいるわけない)

ふと見上げた空はひどく澱んでいた。





比較対称は見世物

私で遊んで楽しいか?
世界の対極を見て楽しいか?