逢エタ向コウデ息絶エタ
「う゛・・・・・・・・・・」
長い長い沈黙に身を置く中、体を起こし、痛みから出る己の呻きを止めて、状況把握に全神経を集中させる。
「あ・・・・起きた?」
湯気を立たせたマグカップを片手に、扉の奥から出て来たのは・・・・
「新羅・・・・」
高校卒業以来会うことのなかった、会ってもあまり嬉しくない3人の一人。しかし、その3人の中では一番ましな方の人物、人格の持ち主であった。“ましな方”とは言っても以上の中の以上の3人組の一人なのであるから、“普通の人”という分類には未来永劫、属せない男だ。
ああ、確か今日は星座占いで10位だったけ、と心の中で呟き、大きく溜め息を吐く。
「ひさしぶりだね。高校卒業以来だったよね」
「ええ。まぁ、ね・・・」
高校生から成人にかけて容姿はあまり変わらない。・・・・筈だ。
「なんか・・・」
「?」
「大人っぽくなったよね」
「・・・・それは、私が高校の時は幼かったってこと?」
「いいや、そういう意味じゃないよ」
●●の悪戯な意の入った鋭い視線に、踵を返すような仕草を見せた。
「高校の時は・・・・」
「・・・」
「何て言うのかな・・・・他の人よりも大人っぽかったけど」
後の言葉の選択に迷う新羅に首を傾げた。
「今はもっと・・・他の人とは違った大人っぽさがあるんだよね」
「・・・言いたいことは分かったわ」
ようするに、普通じゃないって言いたいんでしょ。
何かを吐き捨てるかのように心の中でそう呟いた。
「私、静雄にやられたんでしょ?」
「うん。良く覚えてるね」
「ええ、何か色んな物が飛んできたわ。看板やら標識やら・・・終いにはガードレールもとんできたような気がしたけど・・・彼にとったら、それくらい朝飯前なんでしょうね・・・」
「はは、相変わらず凄いよね」
新羅は顔は笑っていても、心の中では静雄に更なる恐怖を覚えていた。
しかし、その中に、一つの疑問点が浮かび上がり、其れはじわじわと大きくふくらんでゆく。
「何?」
じろじろと自分の体の傷を舐めるように見られるのはあまり慣れておらず一瞬身じろぎする。
「そんなに投げられたのに、よく無事だね」
「無事って・・・・今こうやって新羅に診て貰ってるのに?見えてるの?この私の傷。これ、自分で転んで付けた傷じゃないわよ。静雄が投げたものが当たって出来た傷よ?」
「分かってるよ、それくらい。でも、静雄にそんなに投げられて、良くこんなで傷で済んだねって言いたいの。ねぇ、パルクールでもやってたの?」
「やってない。確か、臨也がやってたやつのことよね・・・・」
「うん」
暫し、二人の中に沈黙が席を取る。そして其の席は、新羅によって消える。
「ねぇ、池袋に何しに戻ってきたの?」
「・・・・何しって言われても・・・・」
「戻ってこないと思ってたし」
「・・・・・」
言えない。言えるわけがない。
「教えてやらない。っていうか、今何時?」
「え?今は・・・六時ちょっと過ぎたところだけど・・・・」
「そう」
●●は小さく微笑むと、有り難うと言ってさっさと新羅の家を出て行ってしまった。
「・・・!」
自分の携帯の入ったスーツの上着を忘れて。
「馬鹿すぎるわ。私・・・・」
こんな風に、忘れられたらどれだけ良いか・・・・・。
どれだけ死んでも、どうして忘れられないの・・・・・・・?
だが、遅かった。
気付いた頃には、もうすでに出る術を無くしていた。