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汽車の窓を少しだけ開けると、そこから涼しい風が入り込んでくる。それが頬の温度を下げていくのがとても心地よかった。

じっと外を眺めているとラビが私に質問を投げかけてきた。

「そういえば、●●の出身はどこなんさ?」
「出身?出身は今から行くとこ、中国」
「え?え?」

ラビは驚きで口を半開きにしていた。その反応を理解できなくもないが、それにしても間抜けな顔だなと冷静に思った。
ちらりと横目で見ると、ブックマンも私に興味のある視線を向けていた。

「私、西洋人みたいに見えるけど、父が東洋人で母が西洋人のハーフなの」

私の回答に納得したらしいラビは首を縦に振った。

「じゃあ、●●も中国語喋れるってことか!」
「たぶん、ね」
「たぶんって?」

ラビという人物に会ってまだ数時間しか経っていないけれどいくつか分かったことがある。通常運転の場合は、およそ18歳、年上には思えない行動や言動を見せる。けれどその合間に、ラビが本来持っているのであろう鋭さが垣間見える。私の「たぶん」という言葉など、他の人からすれば大した意味を持たない言葉に聞こえたはずだ。
そんな言葉を拾う相手だから、私は曖昧にこの場を逃げ切れると思わなかった。

「確かに中国で生まれて何年か育ったけれど、幼い頃は各地を転々としてたりしてたから。でも最近は英語ばっかり喋ってて、中国語なんて久しぶりすぎて自信ないのよ」
「そんなちっちゃい頃からクロス元帥と修行してたんだー。大変そう・・・・」

そう言ったラビの表情は少しげっそりしていた。恐らく、先ほどアレンが言った師匠は主に借金で暮らしていたという話を思い出したのだろう。

「いや、その時はまだ師匠とは出会ってない」

ラビから視線を外し、自分の髪の毛をそっと指ですいた。
西洋人の母の血を濃く受け継いだその髪は金髪で艶があった。他の人ならそれは自分の自慢できる点として挙げるだろうが、私はこの髪のせいで色々と振り回された経験があるのでそう言った感情は芽生えない。

「そんなに人の行き交いが激しい訳じゃないから、東洋じゃ私みたいな見た目の人は珍しいみたいで。見世物にされて出品されたり色んなとこ連れていかれたりしてたから。だから今じゃ、私が自信もって喋れるのは英語ぐらいなの」

さらっと何事もなくしゃべったが、案の定、空気が静まり返る。

「あー、えっと、確かにあんまりいい思い出じゃないけどトラウマになってるわけでもないし悲観してもないから、なんとも思わなくて大丈夫だよ」

確かにこれはラビとブックマンに気を使って言った言葉だ。けれど嘘でもお世辞でもない。これは私の本心。言い過去の思い出でもないし、言ってしまえば嫌な思い出で避けれるものなら避けて通ってきたかった。だからといって今さらそんな過去のことを持ち出されて落ち込む時期はもうとうの昔に終わっている。自分で言うのも何だとは思うが、きちんと私は自分の過去を受け止め切れているのだ。だからこの話題に触れたことを謝罪してほしくないし、ましてやかわいそうだと思われたくない。

そんな私の思いが伝わったのか、謝罪はせず違う話題に切り替えた。

「クロス元帥とはいくつの時から一緒だったんさ?」
「うーん、あんまり正確なことは分からないけど、一年半ぐらい前だと思う。アレンはもうそのときにはいたよ」

私がそう話し終えたのとほぼ同時に、リナリーが帰ってきた。その表情は先程と変わり、少し晴れやかになっているような気がした。アレンと仲直りが出来たということだろうか。

リナリーの後ろかアレンがやってくることがないまま、汽車の発車のベルが鳴った。

「あれ?アレンは?」

リナリーがやってきた扉の方を見ても一向に帰ってくる気配がない。まさかアレンはこの列車に乗り遅れたのだろうか。


しばらくの後、私の予想が当たっていることが判明した。


汽車に戻ってもらえるはずもなく、ラビが槌を使ってアレンを探しに行ってくれることになった。立候補ではなく、物理的に距離のある場所にいるアレンのところへいち早く行けるのがラビだけだったという消去法だった。

ラビがアレンを探している間、私たちはおとなしく汽車で留守番していることになった。

ブックマンとリナリーより少し長く、ラビが行った方向を眺めていた。教団にきて、私はアレンと離れていることが多くなった。師匠と旅をしていた時も四六時中一緒にいた訳ではないが、すぐに会える距離にはいた。けれど今は任務やいろんなことが重なって離れることが多くなったな、とふと思った。

汽車の中に帰ろうと振り返ると、扉の前でブックマンがこちらを見ていた。リナリーの姿はなく、そのまま席に戻っていったのだろう。
ブックマンはあまりにも静かに私を見ていたのでびっくりした。

「あの小僧が気になるか?」

ブックマンはエスパーか何かなんだろうか。あまりにも人の感情に敏すぎるような気がする。驚きを通り越して羨ましい。術があるなら伝授してほしいとさえ思ってしまった。

「・・・信用してない訳じゃないんです。強いってことも分かって」
「そんなことは見ていれば分かる。その様子では、無自覚のようだな」
「無自覚?」

意味深長な言葉を言い残すと、ブックマンは踵を返して行ってしまった。ブックマンの言葉の意味が分からないで突っ立っている私は完全においてけぼりをくらっていた。


そのままいてもしょうがないので私はおとなしく席に帰ることにした。