04

ガタンゴトンと汽車特有の揺れがあるものの、一等車両だけあって室内装飾も綺麗で、個室は十分なスペースがあってそう窮屈ではなかった。

初回の任務早々、汽車の上に飛び乗り乗車する、なんていうハチャメチャな展開が起こって私は少し困惑していた。



「はぁ・・・」


私の隣に座って資料を読んでいたアレンが顔を上げた。


「どうしたんですか?」
「いや、なんだかすごい大ざっぱだなーと思って。この汽車だって切符を買って乗ったわけじゃないし・・・」


ふと、自分の左の胸元を見る。そこには“ローズクロス”と呼ばれるらしい紋章があった。ヴァチカンの名においてあらゆる場所の入場が認められているらしい。
予約もしていないのにこんな一等車両に乗れたのは、この紋章のおかげだった。任務のためとはいえ、一見すれば職権乱用にも思える。

千年伯爵とイノセンス争奪戦争。
これに負ければ世界は終焉へ向かう。そんなたいそうな戦争をしているにもかかわらず、雑というか無計画というか。


「行き当たりばったりね」
「それだけ喫緊した事態だってことなんですかね」


アレンは首を傾げ、東洋人へと視線を移した。それに続くように私も視線を向けたが、彼は一向にこちらに向こうとはしなかった。資料に視線を落としているが、こちらの視線には気付いているのだろう。イライラが見るからに増していた。


「そういえば、まだ自己紹介してなかったですよね。初めまして、私は●●・ボイドです。これからよろしくお願いします」


視線はこちらに向いたものの、すぐに資料に視線を戻され何の返事も返ってこなかった。正体面のあいさつに適した笑みを浮かべたものの、相手はそれに答える気もないようで、私はどう笑顔を引っ込めたらいいか分からなかった。


「一か月殉職しなかったら名前、覚えてもらえるそうです」
「はぁ?」
「ちなみに、名前は神田、というそうです」


良かった、行き場のない笑顔はいつの間にか消失していて、代わりに私の額に青筋が浮き上がった。そして小さく、相手に聞こえるか聞こえないくらいの音量で呟いてやった。


「クソイケメン野郎・・・」
「●●?!」


アレンが隣で焦ったような声を上げたが、私は気にせず目の前に座る男を睨んだ。相手からも鋭い視線を向けられた。
こんな性格の相手じゃどう努力したって上手く接することなんてできない。あのアレンと空気が悪そうだったのもうなずける。


「なんだよ、黄色」
「は、黄色?」


神田、じゃなくてクソイケメン野郎は私の自己紹介がなかったかのように私に名前を呼ばす、変なあだ名で呼んできた。どこがどうなって黄色と呼ばれたのか、一瞬で分かった。私の髪が黄色(多くの人は金髪と言ってくれる)だからだろう。


「ちょっと、そんな変なあだ名で呼ばないで!」
「そうですよ、僕もモヤシじゃなくて、ア」
「もっと考えられなかったの?」
「・・・・」
「え?」


アレンもクソイケメン野郎もまるで私の言葉に戸惑うような表情を一瞬見せ、空気が一瞬止まる。


「あのさ、なんでそんなに捻りも何もないような面白くもないあだ名付けてくれてんの?」
「えっと、●●?怒るとこが少しずれてるような気がしますよ・・・」
「イケメンだからってネーミングセンスが皆無でも許されるとでも思ってるわけ?」
「それ褒めてるのか、けなしてるのか全く分かりません・・・。もはやそのどちらでもないような気が」
「カボチャ」
「カボチャ?カボ・・チャ?あぁ、中身黄色いもんね。んじゃ、それで」
「えぇ?!それで良いんですか?」
「だって、神田の頭じゃこのネーミングセンスが限界だと思うの」


私は睨むのをやめ、椅子に深く腰掛けて資料に目を落とした。向こう側から舌打ちが聞こえたがもう気にしてやらない。

アレンも資料に目を戻したが、すぐに何かを思い出したかのように顔を上げた。


「何でこの奇怪伝説とイノセンスが関係あるんですか?」


また神田の舌打ちが聞こえた。しかも今度は「めんどくせ・・・」という小言付きだ。けれど神田はイライラを表情に出しながらも説明を始めてくれた。

“奇怪のある場所にイノセンスがある”
教団はそういう場所を調べ、イノセンスの可能性が高ければエクソシストを派遣する。


「奇怪、ね・・・・」


今回の任務の調査の発端は、今はもう無人化した「古代都市マテール」には、かつてマテールの住民であった亡霊が棲んでいる――――という、地元農民が語る奇怪伝説。その亡霊は自らの孤独を癒すため、街に近づいた子供を引きずり込むと云う。


「違う・・・マテールの亡霊って・・・」


資料を読んでいくうちに、調査の発端となった奇怪伝説と資料の内容とが徐々に食い違っていく。


「人形・・・・?」


古代都市マテールは劣悪な環境から「神に見放された地」と呼ばれ、そこに住む民は娯楽のために踊りを舞い、歌を奏でる快楽人形を造った。けれど民達は結局、人形に飽きて外の世界へと移住。置いていかれた人形はそれでもなお、五百年経った今でも、動き続けている。


おそらく、五百年人形を動かし続けているものはイノセンスの力だろう。