扉が閉まった後、ガチャンガチャンと鍵が二つ閉められる音が背後でなった。それを聞き届けた●●は視線を上げ、目の前の人物を見据えた。その口元には笑みを、視線には殺意を浮かべていた。
「シノアに何か用?」
「いいや、俺が用があるのはお前だ、●●」
「ならこんなとこに来ないことね。邪魔でしかないわ」
●●は体を左に捻り、暮人に背を向けて歩いていった。
けれど暮人はその背を追うことはしなかった。じっとその背中を視線で追い、口元に薄く笑みを浮かべていた。
「会えて嬉しいよ」
暮人は大げさに両手を広げて微笑んだ。
●●はそれを見ることはなったが暮人の言葉の端々からその笑みを感じていた。
「そうなの?それは驚きね」
●●は暮人から離れていた足を止めた。視線は廊下の奥の、姿を隠した人へと向けられていた。それは暮人の手下たちだった。
●●が自分の部下たちの存在に気付いたことを察した暮人は、その背中との距離を縮めていく。これ以上●●との距離が開かないことを理解しながら、暮人はゆっくりと進んだ。
「私は反吐が出そうよ」
「それは心外だ」
●●が振り返り、暮人はその足を止めた。二人の距離は歩数にしておよそ5歩程。この距離が近いのか遠いのか、そんなことは二人には関係なかった。
「わざわざシノアを拷問に使うなんて、随分と手の込んだ挑発ね。それとも、よほど私に殺されたいか」
「まさか。これはただの連絡手段だ」
「シノアが連絡手段?」
鼻で笑ったあと、●●は腕を組んだ。
「お前はどれだけ人を馬鹿にすれば気が済むの?私を呼んでる暇があるなら医者を呼んで頭の中見てもらいなさい」
暮人は口元に浮かべていた笑みを消し去った。
「今までどこにいた。何をしていた。何故出ていった。これからどうするつもりだ」
「真昼のこと、百夜教のことは聞かなくても良いの?」
「お前に聞く質問ではない」
「この前は聞いてきたのに?」
「わざわざシノアに会いに来たのがそれを裏付けている。もし本当に真昼と共に百夜教側であったなら、お前はシノアに会いには来ない。お前は真昼を誰よりも尊敬し、そして自分よりも格上だと思っている。その真昼がシノアに会いに行かないのに格下の自分が会いに行って足を引っ張るわけにはいかない。お前ならそう考えるだろう」
「随分と私を知ったような口を利くのね」
「伊達にお前の許嫁をやっているわけじゃないからな」
「貴方が時間の使い方を知らない程暇人だとは思わなかったわ」
●●は相手が聞こえるほどに大きくため息をつき、組んでいた腕をゆっくりと解いた。
「いや、ここで油を売っているほどの暇もない。●●、お前には俺の家に来てもらう」
「随分なお誘いね。それ、断られるって分かっててさらっと言える精神がすごいわ」
「喜べ。今回は実力行使付きだ」
その直後、爆音がマンションの廊下に鳴り響いた。