“不釣り合い”

きっと誰もがそう思うだろう。それは私も完全に同意する。



町の中心部近くではあるものの、人々の賑わいから少し離れた込み入った路地に立つ建物。歴史と文化を感じさせる見事な外観ではあるものの、一歩中へ足を踏み入れればあまり良くない意味で“歴史”を強く感じさせる。手入れの行き届いていないエントランスはわずかに差し込む日の光と小さな電球に照らされるだけで昼でも薄暗い。壁はところどころ塗装がはがれてしまったままだ。手入れさえすれば外観同様見事なものに違いないというのは想像に難くないが、外観とて十分に手入れがされているとは言い難い。単に素材の違いと外的要因によりその見事さが保たれて外観と内観に差が出ているだけで、建物の持ち主は見かけにはあまり関心がないのだろう。
町の中心部からそれほど距離が離れているというわけでもないのに、この建物の内部は静寂に満ちていて、人の体重をかけられて階段が僅かに軋む小さな音さえ耳に届く。
そんな建物の3階の突き当りの右側、窓から少しだけ早く朝の光が訪れ、少しだけ早く夜の闇が訪れる部屋。そこに私は住んでいた。大学の寮の一つだ。

手入れが行き届いているとは口が裂けても言えない、怠惰に怠惰を重ねた結果の“不衛生ではない”程度の部屋。要するに、単純に散らかっている。一人暮らし用に設計されたこの部屋はさほど広くはないのに、私の部屋の床にはクローゼットからあふれ出した本がいくつかの山となって積みあがっていた。本棚があればある程度はこの状態を解消できるだろうけど、実家の本棚はこの部屋には大きいし、新たに本棚を買うにしても極度の面倒くさがりな私は本棚を吟味する労力を割けないでいた。けれどどこにどの本や資料があるかは概ね覚えているのでなにも問題は発生しない。
色物のインテリアどころかそういった部屋を装飾する類のものは一つもなく、あまり雰囲気の良い部屋ではなかった。課題に追われる日々だからという以上に、面倒だしあまり興味がなかった。
この部屋ですることといえば私の場合は寝るか机に向かうかぐらいしかないので、特段困ることはない。それでもやはりたまに困ることはある。

例えば、来訪者が来る、とか。

「久しぶりね、●●」
「突然過ぎない?」
「ちゃんと昨日の昼頃に連絡入れたわよ。たまたま、仕事上の都合で急に近くの町に行くことになったからそっちに寄るって」
「え、見てなかった・・・」
「だと思った」

私の返答に大きなため息をつくと、来訪者は部屋の主である私に了解を得るそぶりも見せず、ごく自然な動作で中へ入って後ろ手でドアを閉めた。連絡をきちんと見ていなかったとはいえこちらは突然の来訪に驚いていたのに、相手はそんなことなど気に留めない様子で私の隣を通り抜ける。そして部屋の中を軽く見まわしたかと思えば、何か不満げな表情でこちらを振り返る。

「久しぶりに再会するアタシにまず言うセリフがそれ?」
「それもそうだね。久しぶり、ヴィル」

私のその言葉に何か満足したのか、年下の幼馴染――ヴィルは満ち足りたような笑みを浮かべながら、つい先程と同じ言葉を繰り返した。

「久しぶりね、●●」

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