ワンルームの楽園
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ヴィルとは同じ輝石の国出身で、家が近所で親が懇意にしていたことから私たちの交流は始まった。彼は少し特異的だった。そしてあまりにも私と違っていた。
あまり人の容姿について深く言及するのは避けたいけれど、彼の容姿は非常に人の目を、心を引き付ける。180pを超える身長とそれを際立たせるようなスラっと伸びた四肢、整った顔はまるで彫刻のようだった。私をじっと見つめるアメジストの瞳は宝石のようによどみなく透き通っている。シャンパンゴールドの髪は、窓から差し込む決して多くはない光量の中でまるで輝きを放っているかのように見える。彼の外見的な美しさは年齢による変化を経ながら、彼自身のたゆみない努力とともに幼少期から継続されてきた。
“普通の家庭環境“なんてどこにもないのだろうけれど、それでも彼の場合はやはり一般的ではないだろう。世界的なスターを親として生れるということは。世界は幼い彼に選択の余地も与えぬ間にスポットライトを当てていた。世界的スターの息子として。
彼は幼いながらにして、世界的なスターとして活躍する親への尊敬の念を抱きながら、同じ道を志してスポットライトを浴びることを自ら選択した。
私にとっての幼馴染は、世界にとっては俳優でありモデルであるヴィル・シェーンハイトとなった。
「ほんとに久しぶりだねー。何か月ぶりだろ・・・」
大学1年の時はかろうじて実家から通える距離にキャンパスがあったけれど、2年からは実家通いのできる距離にはない場所のキャンパスに通うこととなった。そして進級に合わせて私は実家から出て、一人暮らし生活を始めた。
「半年ぶりよ。貴女が引越し先をきちんと連絡しないから」
「わっ」
ヴィルがいきなり距離を詰めてきたので思わず仰け反ってしまった。年下とはいえ頭一つ分ほど私より高い身長と、何より、確実に私自身に向けられた彼の呆れと怒りのオーラに気圧される。なぜそんな態度になるのか理由は分からないけれど、とりあえず返答を絞り出す。
「連絡はしたじゃん・・・」
どうやらこの返答では彼の呆れと怒りは抑えることはできなかったようだ。どちからと言えば火に油を注いだと言った方が近いかもしれない。一段と大きなため息で返されてしまった。
「アタシが今住んでるのはナイトレイブンカレッジの寮なの。ちゃんと貴女に住所教えたはずだけど。もしかして住所書いた手紙どこかやったの?これから手紙を送るときは毎回アタシの住所書いた方がいいかしら?何かあったらここに連絡してって」
スマホという文明機器を両者共に持っていながら、私たちは所謂“文通”も連絡手段として併用している。これには主に私に理由が、というか“原因”がある。スマホを必要とする頻度がとても低く、頻繁にその行方を喪失してしまう。そんな私にしびれを切らしたヴィルが“手紙”という連絡手段を提案してきた。幸い、私は紙の新聞を購読しているため毎日ポストを確認するので手紙はきちんとチェックできる。
そして何より、私とヴィルはデジタル的な連絡手段よりもより幅広く気持ちを表現できる“手紙”に感じる情緒的な魅力を共有していた。それにかかる時間と労力を含めて。
「いや、あなたが今ナイトレイブンカレッジの寮に住んでるのは知ってるし、住所の書いてある手紙だってきちんとあるよ。ただ、引っ越して一人暮らし始めたってことはあなたの実家に連絡しておけばそれでいいかなって思ったの」
「おかげで、学業と仕事を調整して輝石の国に帰ったのに貴女のいない実家を訪ねることになったわ」
「そういえば、それをおばあちゃんから聞いたとき、ちゃんと連絡してなかったの?って言われたの今思い出した・・・」
「ほらね」と言いたげなヴィルは呆れと怒りのオーラを弱めた。謎すぎる反応だ。ヴィルの意図するところがまるで見えない。けれど私が考えたところで分からないだろうと見切りをつけ、話題の転換を試みる。
「どこかカフェでも行く?ちょっと歩いた表通りにオシャレなカフェあるよ。それとも大学構内のカフェでも案内しようか?」
「アタシがここにいてたら何か都合悪いの?」
気のせいだろうか、ヴィルの眉間に少し力が入ったように見えた。
「え?いや、ヴィルがこの部屋にいて都合悪いことなんかないよ」
「じゃあなんでよ」
「来てくれたからにはもてなしたいところだけど、私の部屋は来訪者を想定してなくって・・・」
肩をすくめながらヴィルの視線を床の本の山たちへ導く。ヴィルの表情が和らぐ。
「こんなこと想定内なのよ。小さい時からそうでしょ。貴女の部屋から本の山が消えたこと一度でもあった?」
「おっしゃる通りで」
「ま、常に誰かが来ることを想定されてても困るんだけど」
普段ハキハキと相手に伝えるヴィルにしては珍しく、小さくつぶやかれたその言葉を私は拾えなかった。
「え?」
「なにもないわ」
ヴィルは小さく首を振りながら、部屋の奥へと入っていった。彼は私の部屋に一つしかない椅子の背に軽く手を置き、部屋を見回す。彼の口元から笑みがこぼれる。
「ほんと、●●らしい部屋ね」