止めようのない雪崩れのよう
“血”で自分の運命が決められる。
なんて、この21世紀の日本社会においてばかげた話だと思った。自分の心も体も、自分のものだ。すべてを自分のコントロール下に置けなくとも、それでも自分に関するすべてのことにおいて常に一番強い選択権を持つのは自分であるべきだと思っていた。たとえ子供であってもその選択が採用されなくとも最大限尊重されるべきだ。だからそんな話は私は到底受け入れることができず、憤りを覚えた。侮られているのだから当然の感情だと思った。けれど両親や兄は違っていた。というより、私のその性格が親族の中で特異的だったと言うべきかもしれない。両親を筆頭に私のその考えを“思春期特有の反抗期”としてとらえ、皆「いつかは理解できる」と“大人”然とした対応をした。それが余計に私の憤りを煽った。あまりに私を一個人として認めていないし、隷属的かつそれを他人に強制する卑怯な行為だと思ったから。
ただ、兄は少し違った。このばかげた話を仕方がないと受け入れながらも、私のその考えを否定したりしなかった。「好きに生きればいい」と優しく微笑んでくれた。
――――そして、それが私にとって兄の最期の言葉となった。
本当に最悪だった。もういっそ死にたいとさえ思った。私にとって唯一の理解者であった兄は帰らぬ人となり、父はその喪失に耐えられず精神を患い、母はひどくやせ細ってしまった。そして、私は亡き兄が通っていた高専へと強制転入させられた。当時の未成年の学生の私になすすべなどあるはずもなく、ただ大人たちのパワーゲームの渦中に投げ込まれるままだった。
突然のことに真っ白になった頭の中に黒くてドロドロした何かがなだれ込み、私の思考と視界を奪っていった。誰も助けてはくれなかった。
けれど私は私の人生をあきらめきれなかった。精神が蝕まれてゆく恐怖に、ひどい焦燥に駆られながらも、なけなしの希望を誰にも見つからないように秘め、卒業まで耐え抜いた。そして卒業後は“契約”を違えない範囲で自分という存在の隠匿を試みた。
たとえそれが自分に懐いてくれていた子供たちを捨てるような、幼い心に傷をつける行為だとしても。
私は自分で自分の人生を生きたかった。
なのに、なのにどうしてーーーーーー
「お久しぶりです」
突然、見えない何かに首をつかまれたかのように息苦しくなる。心臓の音がやけに大きく聞こえて私の中に湧き上がる恐怖を煽り立て、全身に血の気の引くような悪寒が走る。
何かをこらえるようにぎゅっと拳を握り締め、彼は一歩距離を詰めてきた。それに合わせて私も一歩退く。
私は彼を――――――伏黒恵を知っている。
彼は私に懐いてくれていた子供の一人で、心を傷つけることを厭わなかった相手で、そして今はきっと――――――私がこの世で最も忌避している呪術師だ。
とっさに口を衝いて出た言葉は、
「誰なの」
嘘だった。