君が思い出になる前に
壁外調査中に索敵の任務に就いていたナマエの班が、奇行種に遭遇したらしい。班員を逃がすために、ナマエは囮になり、巨人を引きつ付けつつ遠くに走り去ったと、後々その班員たちが涙ながらに話していた。それを聞いた俺は、アイツなら絶対にそうするだろうと納得してしまう。ナマエとはそういう奴だ。自分より他人の命に重きを置き、仲間のためになら、自分の命など惜しくないという気持ちを持って戦っていた。常に仲間を守るために戦い、失くした命を想って涙する。それは俺が一番よく知っていることだ。だからこそ、いつかはこうなるのではないかと思っていた。思ってはいたが、だからと言って受け入れられるかと言えば、それはまた別の話だ。

ナマエが死んだなど、信じられるはずもない。アイツは強いのだ。だが、囮になった者はごまんといるが、戻って来た者など一人もいない。死体もなく、どうやって信じろというのだろうか。分隊長であるにもかかわらず。ハンジは泣いていた。あのエルヴィンまでもが、酷い落ち込みようだった。

自分の女一人守れない男が、人類最強と謳われていることに情けなさから笑いがこみあげてくる。こんなことなら、もっと甘やかしてやれば良かった。もっと構ってやって、気持ちを言葉にしてやれば、アイツは喜んだだろう。どうしてそんな簡単なことも出来なかったのだろうか。散々選択を課せられてきた人生で、また後悔し、学ばない自分がひどく哀れだった。


「クソッ。何勝手に死んでやがる!」


壁外から戻り、自室で一人珍しく酒を煽る。夜も更け、眠れば良いものの、情けない話だが眠れずにいた。目を閉じれば嫌でもナマエの顔が瞼の裏に浮かぶのだ。

突然、バタバタと部屋まで聞こえるぐらいの足音が近づき、音を立てて部屋の扉が開いた。目をやると、そこには、血相を変えたハンジが息を切らして立っている。


「てめぇ、ノックもなしとはいい度胸だな。」


その言葉すら聞こえていないのか、ズカズカと部屋に入り、肩を震わせながら、ハンジは口を開いた。



「ナマエが…、ナマエが帰ってきた。」


「…は?」


「帰ってきたんだよ…!」


「…誰が?」


「ナマエが!!!!」


「クソ眼鏡、笑えねぇ冗談をいうな。削ぐぞ。」



有り得ない。壁外調査から、もう3日は経った。生きているわけがない。ふざけた冗談を笑えるはずもなく、思わず椅子を蹴りそうになる。


「いくら私でも、そんな冗談言うと思うかい?」


「…っ。どこにいる?」


「い、医務室…。」



ハンジがそう答えた瞬間、頭で考えるよりもさきに身体が動く。生きてるだと?どうやって帰ってきた?いやそんなことは、どうだっていい。ただひたすら医務室まで走った。




医務室の前に着き、ドアノブに手を掛けると、なぜだか手が震えた。意を決して扉を開けば、見慣れた姿が目に映った。



「リヴァイ!あの、遅くなってごめんなさい。結構遠くまで行っちゃってて、怖くて夜しか動けなくて…」



ベッドに横たわるのは、まぎれもなくナマエだった。先ほどのハンジのようにズカズカと医務室に入り、人目も気にせず、抱き締めた。


「ちょ、ちょっと!皆いるって!!」



「うるせぇ。」



「私、汚いよ…?」


そう言いながら、ナマエは肩を震わせていた。恐らく泣いてるのだろう。当然だ。壁外に1人残され、恐ろしくなかったはずがない。



「守ってやれなくて、悪かった。」



「私、ちゃんと帰ってきたよ?リヴァイのところに。」


「ああ、本当によくやった。よく帰ってきた。」


この先も悲惨な現実が待ち構えているのは理解していたが、今、この時だけはナマエのことだけを考えていたいと思った。


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