揺らいだのは世界のほう

どうして、前世の記憶は少しずつ戻ってきているのに、現世の記憶は戻らないのだろう。焦っても良いことなどないのはわかっていても、それでも早く全てを思い出したいと思う欲張りな私はどうしたら良いのだろうか。



「で、ナマエはどうしたいんだよ?」



手元のグラスに入った氷をカラカラとストローで音を鳴らしながらエレンは尋ねた。気がつけば寒い冬も終わりを告げて、大学のカフェテラスから見える景色は綺麗なピンク色に染まっていた。


「どうにかして、記憶を取り戻したいの。何か良い方法は浮かばない?」


同じ大学に通うエレンとは顔を合わす機会が多く、こうしてお茶をすることも少なくない。


「そんな方法が浮かんでたらとっくに教えてるに決まってるだろ。」

「そうだよねぇ。」


どうしたものか、と思いながら、エレンを真似して手元のストローで氷の音を鳴らしてみる。


「前にハンジさんに聞いたけど、ナマエが兵長と再会したのって、ちょうど一年前らしいぞ。その頃の行動辿ってみたりしたらどうだ?」


エレンの提案になるほど、と頷きハンジさんに去年の出来事でも聞いてみようと思い鞄から携帯電話を取り出そうとすると、エレンが立ち上がった。


「そろそろバイトだから行くな。まあ焦りすぎるなよ。俺としては思い出して欲しくないこともあるけどな。」


なんてな、と冗談まじりに笑いながら私の頭にポン、と手を置いた。その刹那、視界がぐにゃりと歪のと同時に頭の中に様々な映像が流れ込む感覚に襲われた。





"リヴァイに会いたいかい?"

"俺がお前を支えたいんだ"

"君達は、幸せになっていいんだよ。"





「ナマエ?おい、ナマエ?大丈夫か?」


我に返れば、エレンが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。


「…エレンの手は魔法の手なの?」

「は?お前なに言ってんだよ?」


全てではないが、一部の記憶がするりと入り込んできてエレンの手が本当に魔法の手のように思えて仕方がなかった。


「…エレンはずっと、私を見ていてくれたんだね。ありがとう。」



もう少し、もう少しで記憶が戻ると根拠はないがそんな気がした。





ALICE+