君と過ごした証
人の記憶なんて、曖昧で不確かで。思い出は美化されるとよく言われたり、自分に都合の悪いことを忘れてしまったりするのは、きっとその所為だ。果たして、私の記憶の中の彼、リヴァイさんは美化されているのだろうか。ふとした時、頭痛と共に断片的な記憶が脳裏に浮かぶことがある。夢で見たように、悲惨な記憶の時もあるが、最近よく浮かぶのは、リヴァイさんだった。首元にいつもスカーフを巻いていて、キッチリとジャケットを羽織っている彼だったり、優しい眼差しでこちらを見ていたり。一番最近浮かんだものは、馬に跨り、前を見据えて駆けている彼だった。どの部分をとっても、異常に格好良すぎるのだ。勿論、今だって格好良いのだけど。「ねぇ、それってただの惚気だよね?」
呆れたような顔で私を見るハンジさんは、そのままの表情で手元のコーヒーを啜った。よく考えてみると、確かに惚気以外の何ものでもない。そう気がつけば恥ずかしくなり、顔の熱が一気に上がった。
「リヴァイをそういう風に見たことがないからわからないけど、部下からは慕われていたし、世間からは憧れられていたし、格好良い部類に入るのかもね。」
「世間からって…。そんなに強かったんですか?」
「それは勿論。人類で一番強かったよ。リヴァイは。人類最強と呼ばれた男だし。」
「…人類って、冗談でしょう?」
「いや、本気で。」
自分が想像していた以上の返答で、開いた口が塞がらなかった。人類で一番なんて、平凡な私には想像もつかない。
「…私、どうしてそんな凄い人の恋人だったんでしょう。何かリヴァイさんの弱みでも握っていたんですか?」
そう問いかければ、声を上げて笑い出すハンジさん。真剣に聞いているのに、とむくれれば、更に笑いだす始末だ。
「ごめんごめん。でもさ、人類最強の男がそう簡単に弱みなんて握らせないから。握れるもんなら私だって握りたいよ。…それに、弱みを握られたからって恋人になってくれるような奴じゃないでしょう?」
「そうかもしれませんけど、それでも不思議です。そんな人なら引く手数多だったはずなのに。」
「そうかもね。それでもやっぱり、リヴァイはナマエを選んだと思うよ。優しい眼差しでって言ってたけど、それはナマエに対してだけだったんだよ。恋人同士になる前からね。」
まるで自分のことかのように嬉しそうに話す彼女もまた、優しい瞳で私を見ていた。
「記憶、少しずつ戻っているんだね。」
「はい、前世のことだけですけれど、断片的に。」
「そっか。安心しなよ、ナマエ。君は前世でも現世でもリヴァイにちゃんと愛されているんだから。」
「誰が誰に愛されてるんだ?」
突然後ろから聞こえてきた低い声に驚いて振り向けば、いつから立っていたのだろう、リヴァイさんだった。
「やあ、リヴァイ。早かったね。」
「休日まで仕事をさせやがって。エルヴィンの野朗。」
そう言いながら、ネクタイを緩めるリヴァイさんは色っぽくて、やっぱり格好良い。思わず見惚れていれば、ハンジさんに向けていた彼の視線は私に向けられた。
「どうした、ナマエ。」
「いっ、いえ!お仕事お疲れ様です!」
「あぁ。…このクソ眼鏡に何もされなかったか?」
頭を優しく撫でられれば、嬉しくて顔が綻ぶ。今日は週末ということで、リヴァイさんとハンジさん、エルヴィンさんとエレンと食事に行くことになっていた。エルヴィンさんとエレンは遅れてくるらしい。
「酷い言い草だなぁ。こっちは惚気を聞いてたっていうのに。」
「ほう、詳しく話せ。」
「ちょっと、ハンジさん!ストップ!」
「君が格好良く見えて仕方ないらしいよ、リヴァイ。」
ストップなんて言葉は意味をなさなかったらしい。あっさりと言われてしまった。そして更に意地が悪いリヴァイさんは、私に向かってとどめを刺した。
「そうなのか、ナマエ。」
そう尋ねられて、違いますなんて言えるはずがない。いや、その通りなのだが。
「…はい。」
そう言うのが精一杯だった。ハンジさんを睨めば、やはりまた笑っていて。恥ずかしさに項垂れていれば、ふいに耳元に吐息がかかる。
「なら、俺だけを見ていれば良い。」
こっそりと耳打ちするように告げられた言葉に、更に体温が上昇する。それなのに彼は何事もなかったかのように私の隣の椅子へと腰掛けた。どうして、この人はそんな言葉を恥ずかしげもなく言えてしまうのだろうか。横目で彼を見れば、「どうした、真っ赤だぞ。」なんて言うのだから、本当にずるい。それでもそんな彼が愛しくてたまらないのは、心底彼に溺れているということだ。そんな彼との思い出を失くしてしまっていることが本当に悔しかった。