呼吸の仕方を思い出す

初春といってもまだ肌寒い3月の気候で、朝は冷え込んだ。明日、私は高校を卒業する。卒業式の予行は昨日終了し、今日は特別学校に行く必要はなかったが、制服に腕を通し、いつも通りの電車に乗った。待ち合わせをしているわけでもないのに、緊張して足を震わせている自分に笑ってしまう。一目だけでもいい、もう一度だけ彼を瞳に映したいと思った。出会ったあの駅で降りて、階段に近い、ホームのベンチに腰掛けた。駅では誰もが忙しなく歩いていて、皆、周りを見る余裕もなさそうでほっとした。これなら彼が通っても気がつかないだろう。電車がホームに入ってくるたびに、胸を高鳴らせた。


気がつけば、時計の針は12時を指していた。私は3時間以上もベンチに座り続けていたらしい。彼はスーツを着ていたから、おそらくは会社員だろう。出勤時間はとっくに過ぎているはず。


「…会えなかったか。」


もしかすると、会社の最寄り駅でもなんでもなかったのかもしれない。そんなことを考えながら、せっかくなので、彼も見たであろう景色を見ようと、駅の改札を出た。規模が大きいわけではないその駅を出ると、バスのロータリーと広場があった。横断歩道を渡ったその先は、オフィス街のようだ。もしかしたら、この街のどこかに、彼がいるのかもしれない。そう思うとなんだか少し嬉しかった。


あてもなく歩いて、ふと周りを見ると、スーツ姿の人たちが多いことに気がついた。そういえば、お昼休みの時間帯だ。前からも同様の人たちが歩いてきて、すれ違った後、突然肩を掴まれた。


「失礼。もしかして君は…。」


振り返ると、予想外の顔に私は思わず手に持っていた鞄を落とした。


「…エルヴィン団長?」


「ナマエ、ナマエなんだね?」


懐かしい顔だった。あの頃のまま、優しい顔と声色で。


「私のことがわかるんですか?」


「勿論だよ。ナマエ、君には記憶があるんだね?」


「…はい。またお会いできて嬉しいです。」


「私も嬉しいよ。」


そう微笑んでくれる団長は、私をひどく安心させた。同じ記憶を持つ人が存在した。私だけではなかったのだ。


「その格好からすると、学生かい?こんな時間に外にいて大丈夫なのか?」


「はい、明日高校を卒業します。授業はもうないので、大丈夫です…」


リヴァイ兵長のことを団長に聞くべきなのだろうかと少し俯き悩んでいると、何かを察してくれたのか、


「ちょうど、今から昼休みなんだ。一緒にどうだい?」


と声をかけてくれた。そういえば、安心したからか、自分が空腹なことに気がついた。朝から緊張のあまり、何も食べていない。


「ぜひ、ご一緒したいです。ありがとうございます、団長!」


思わず大きな声で言ってしまうと、彼は困ったように笑った。


「ここで"団長"はおかしいだろう?」


「あっ!すみません。エルヴィン…さん?」


そう呼ぶと、二人で顔を見合わせて笑ってしまった。


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