やわらかい昼下がり
18年間、何不自由なく生きてきた。優しい両親に恵まれ、小中高と学校に通い、この春からは大学生になる。巨人の脅威もないこの世界は生きやすいはずなのに、何故だかいつも心は満たされなくて。このまま大人になって、なんの変化もないまま、過去の記憶に想いを馳せて死ぬのだろうと思っていた。「本当ですか?」
彼が嘘を吐くわけがないのに、聞き返してしまった。
「あぁ、本当だよ。」
彼は穏やかな声でそう答えてくれた。
彼とリヴァイ兵長は、同じ職場で働いているらしい。エルヴィンさんと会った時点で、兵長と繋がっている気はしたのだが、いざその言葉を聞くと、真偽を確認したくなってしまったのだ。
「彼は…兵長はお元気ですか?」
「あの頃のままだよ。リヴァイは。」
「そう、ですか。」
自分で聞いたにもかかわらず、彼のことを聞いて少し後悔した。知りたいけど、知れば会いたくなってしまう。
「残念ながら、リヴァイに過去の記憶はないんだ。」
「…はい。知っています。」
「会ったのかい?…この辺りにいたのは、偶然ではないということか。」
「偶然、駅で見かけて、声をかけてしまいました。」
「そうか。辛い思いをしただろう。」
そんな優しい言葉をかけられてしまうと、泣いてしまいそうになる。彼は、私と兵長が恋人同士だったことを知っている数少ない人物だった。さらに話を聞けば、兵長だけでなく、ハンジ分隊長や他の兵士たちも数名一緒に働いているそうだ。ハンジ分隊長は記憶があるらしい。穏やかな表情で話していた彼が突然、真面目な顔になり少し考える素振りを見せてから口を開いた。
「リヴァイに会いたいかい?」
「…っ。」
思いがけない問い掛けに、言葉を詰まらせた。
「ナマエ、君には酷な話かもしれないが、私は、リヴァイが過去の記憶を持たないのであれば、そのまま思い出さずに今を幸せに生きて欲しいと思っている。」
とても話し辛そうに、それでも真っ直ぐに私の目を見て、言葉を続けた。
「あの世界は、あまりに残酷だった。リヴァイにとっては尚更だ。人類最強と謳われ、沢山の重荷を背負っていただろう。…そんな記憶を思い出さない方が、彼にとっては良いのだと私は勝手に思っている。」
彼の言う通りだと、本当に思った。
「私も…そう思います。」
「…来月末に、職場の仲間内でバーベキューをする予定なんだ。ハンジや、…リヴァイも来る。もし君が過去のリヴァイでなく、今のリヴァイに会いたいと思ってくれるなら、ぜひ、来てくれ。私の遠い親戚として紹介するよ。」
どう答えれば良いのか、一瞬迷ったが、すぐに気持ちは決まった。
「ぜひ、参加させてください。」
そう笑って答えると、彼は嬉しそうな、悲しそうな表情をした。
「すまない。ありがとう。」
「バーベキューなんて、アクティブなんですね。楽しそう。」
「後悔しないよう、楽しく生きなければならないだろう?」
「ふふっ。そうですね。」
彼にちゃんとした形で会いたいと思えた。その気持ちに素直になろう。
「さっき、リヴァイは過去で辛い記憶ばかりがあるような言い方をしてしまったが、君と過ごした時間は、幸せだったと思う。本当に。」
「あり…がとうございます…。」
その言葉を聞いて、堪えていた涙が、一筋流れた。