君が思うより、ずっと






"今日はサークルの食事会があります。ごめんなさい。帰りにまた連絡しますね。"


珍しく定時に上がれそうだから食事でもとナマエに連絡すれば、返ってきたのは断りのメールだった。そんな日もあって当然なのだが、考えてみればナマエを誘って断られるというのが初めてだということに気づいた。いつもタイミングが良かったのか、無理やりにでも時間を合わせてくれていたのか。ナマエのことだ、他の約束があれば、それを無碍にするはずもない。多少の無理はしていたかもしれないが、恐らく前者だろう。そんなことにも気がつかずにいた自分を阿呆かと思うのと同時に、予想以上に落胆していることに驚いた。


「チッ。ガキじゃあるまいし。…ナマエの奴、サークルなんか入ってやがったのか。」


そんなことすら知らなかった。あいつはこちらから聞かなければ、あまり自分の話をしない。だからって恋人の所属しているサークルを知らないというのは問題ではないか。そういえば、ナマエがどういう大学生活を過ごしているのか全く知らない。


「なになに、その険しい顔は!フラれたの?」

「ふざけんな。…てめぇ、ナマエが何のサークルに所属しているか知ってるか?」

「え?知ってるよ。…もしかして、知らなかったとか?!」

「うるせぇ。」


更に何か言いたそうなハンジを無視してオフィスを出た。無性に苛立つが、どうしようもない。大人しく家に帰り、酒でも煽ろうと駅へと歩いた。


***


「…遅ぇ。」


缶ビールを傾けつつ時計を見れば、23時を示していた。帰りに連絡すると言っていたが、まだきていない。今時の大学生の飲み会なんて、23時に終わるはずもないが、それでもあいつは一度、ストーカーの被害に遭っているのだから、少しは自重するべきだ。"帰る時に必ず連絡しろ"とメールを送ったが返信はない。いつも返信が早いナマエだが、今日に限って。いや、飲み会の時に返信する方が間違っているだろう。いつもは俺がメールの返信を後回しにしているくせに、それを棚に上げている。


「携帯ばかり気にして…女子高生か、俺は。」


サークルの飲み会なんて、ろくなもんじゃない。というのも、自分の学生時代を思い返してみれば、うんざりするような思い出ばかりで、飲み会に行っては、言い寄ってくる女を…なんてこともあったわけだ。そんな自分に今でこそ嫌気が差すが、あの頃は若さ故の過ちというか、悪気など一切なかったのだ。俺と違って育ちの良いナマエが、そんな間違いを犯すとは思えない。だが、酒の席で酔っ払ってしまってはどうだろうか。酒の弱いあいつにつけ込む輩が居ても不思議ではない。前世でも、ナマエに好意を寄せている兵士が何人かいたことだってあった。そんなことを考え出していれば、もうすぐ日付の変わる時間だ。さすがに遅すぎだろう、と電話をかければ、繋がらない。電源を切っているらしい。


「クソッ。」


いても立ってもいられず、風呂上がりなどお構いなしに上着に手をかけ、家を出た。

ナマエの家までは、そう遠くない。以前もそのおかげでストーカーを殴り飛ばせることが出来た。今回も帰宅途中に何か起こったのかもしれない。そう思いながら夜道ナマエの家へと急いだ。


「あれ?リヴァイさん?」


ナマエのマンションまでたどり着けば、エントランスの前で不思議そうな顔で俺を見ているナマエを見つけ、腕を掴んだ。


「え…え?どうして…。」

「ナマエ、てめぇ、帰りに連絡するんじゃなかったのか。」

「すみません、携帯の充電が切れてしまって…。心配…かけてしまいましたか?」


申し訳なさそうに尋ねるナマエを見て、無事で良かったと安堵し、思わず勢いで抱き締めた。


「リヴァイさんっ、ここ外です!」

「うるせぇ、黙ってろ。」


大の大人が、こんな年下の女にここまで翻弄されているとは。余裕のない自分に嘲笑ってしまう。前世での付き合いで、こんな露骨に振る舞うことが許されていなかったその反動だろうか、出来ることなら、目の届くところにずっと置いておきたいとすら思う。なんて危険な感情だろう。


「と、とりあえず部屋に上がりましょう?」

「…そうだな。わかっているだろうな、ナマエよ。俺に心配をかけた罪は重い。」


そんなことを言いつつ、それが自分勝手極まりないことは重々承知している。別にナマエは悪いことなど一つもしていないのだ。


「…なんでも言うこと聞きます。ごめんなさい。」


それなのに、あたかも自分が全て悪いかのようにしょんぼりとしているナマエが、愛しくて仕方がない。どうしたら、こいつの想いを俺に傾けさせ続けることが出来るだろうか。大学を卒業したらすぐに結婚、というのもアリだ。明るい未来を思い、心を躍らせるなんて柄でもないが、たまには悪くない。頬が緩みそうになるのを堪えながら、ナマエの手を引き、歩き出した。



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