星に願いを、月に涙を






兵士になって、三度目の冬が訪れた。吐く息は白く、身体は少しばかり震えている。この瞬間が、自分は生きているのだと実感させてくれる。空を見上げれば、無数の星たちが瞬いている。"人は死んだら星になるの"そう教えてくれたあの子は、ちゃんと星になれたのだろうか。この季節になると、どうも寝つきが悪くなる。どうしてだろうと考えてみれば、そういえば初めて参加した壁外調査がこの時期だったことを思い出した。私は別段、強いわけではない。かといって弱いつもりもないけれど、それでもここ数年、調査兵団に属して生きていられるのは、運が良いからだ。沢山の死を目の当たりにし過ぎたせいか、自分は本当に生きているのだろうかと錯覚することもある。特にこの時期の私は不安定なのだ。そんな時には決まって、消灯時間を無視し、外に出ては星を眺めている。


「こんな時間に部屋を抜け出すとは、いい度胸だな。」


声のする方に振り向けば、思いもよらない人物が立っており、さすがに驚いた。


「兵長…。」

「何をしている、ナマエ。」

「星を、見ていました。」


そこにいたのは、リヴァイ兵長だった。彼こそ、どうしてこんな時間に外にいるのだろうと不思議に思ったが、聞けるはずもない。彼は上官だ。私は咎められる立場なのだから。


「クソ寒い中、物好きもいたもんだ。早く寝ろ。」

「…はい。すみませんでした。」


素直に自室に戻ろうと歩き出せば、肩を掴まれた。まだ、何かあるのだろうか。


「リヴァイ兵長?」

「…ナマエ、てめぇの部屋に行った。昨日もだ。…寝ていないだろう。」

「どうして、私の部屋に?」

「最近のてめぇは、顔色も悪いは食事もあまり摂っていない。」


よく見ていらっしゃる。なんて部下思いな上官だろうか。こんなに気にかけてもらってしまうと、自惚れてしまいそうだ。私は兵長が好きだった。彼にとって私は、ただの部下の一人に過ぎないけれど、それでも構わなかった。


「ご心配をお掛けしました。大丈夫です。」

「それのどこが大丈夫って面だ。言っておくが、今、俺は上官としてお前と話しているつもりはない。それならお前を咎めなくてはならないからな。」

「では、どういう…。」

「好きな女を気にかけることに理由は必要か。」


耳を疑った。今、兵長はなんて言った?聞き返すことも出来ず、固まっていると、掴んでいた肩を離し、ついて来るように促された。


たどり着いた先は、兵長の自室だった。無駄な物はなく、キチンと整頓されている清潔な部屋なあたりが、兵長らしいなと少し笑ってしまった。そんな私を気にする素振りも見せず、彼はベッドに潜り込んだ。


「あの、兵長…?」

「こっちにこい。…嫌なら、出て行って構わない。」


ずっと想っていた相手だ。嫌なはずがない。けれど、突然の進展に、気持ちがついていけていないのも事実だった。


「別に襲うつもりはねぇよ。」


くつくつと笑う彼を見れば、躊躇う自分が阿呆らしくなる。恐る恐るだが彼の被る布団に手をかければ、すぐに腕を掴まれ、ベッドの中へ引きずり込まれた。そのまま私の背中へと腕をまわす。目の前は兵長の鎖骨辺りが見えて、一気に鼓動が速くなる。


「何を考えて、星を見ていた?」

「死んだ仲間のことを考えていました。」

「部屋からでも星は見えるだろう。」

「外に出て、寒さに触れれば、自分が生きていることを実感します。」


そう答えれば、幼子をあやすかのように、優しく背中を撫でられる。なんて心地良いのだろう。


「冷たさで生きていることを実感するな。…今も実感はないか?」


心地良い、なんて久しぶりに感じた。兵長の温もりがそう感じさせてくれたのだと気づく。そうか、人は温もりで、生きていると実感出来るのだ。あまりの心地よさに、だんだんと瞼が重くなってくる。


「温かいです、兵長…。」

「そうか。」


彼の手は私が眠りにつくまで背中をさすってくれた。明日、また目覚めれば残酷な現実が待っているだろう。それでもいつか来る幸せな未来を夢見て、明日の夜もまた私は彼の温もりに縋ってしまうに違いない。



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