記憶の片隅に眠る
突然、変な夢を見るようになった。どんなB級映画だという程に残虐で、絶望的な夢を。人は馬鹿でかい化物に喰われ、自分はそれと戦っている。柄にもなくヒーロー気取りか。決まって最後は誰だかわからない女が泣いていて。これまた柄にもなく頭を撫でてやりたいと思うのだが、手を伸ばし、触れる寸前に目が覚める。こんな夢を見るようになったのはいつからだろうか。…あぁ、変なガキに引き止められた日からだ。
「エルヴィン…なんて顔をしている。昼飯食って、腹でも壊したか。」
昼休み、社外に出ていたエルヴィンが戻って来た時の顔は、なんとも悲痛な表情を浮かべていた。あまり感情を表に出さない奴が、珍しい。
「いや、大丈夫だ。…ハンジ、話がある。」
「え?なになに?」
連れ立ってオフィスを出て行く二人を気にも留めず、パソコンの画面に目を戻した。夢のせいか、最近深く眠れていない。あの胸糞悪い夢はどうにかならないのだろうか。そんなことを考えながらパソコンと向き合っていると、バタバタとハンジが戻ってきた。
「うるせぇな。静かに戻って来れねぇのか。」
「リヴァイ!バーベキューだね!」
「は?」
突然何を言い出すんだ、このクソ眼鏡は。そういえば、来月にそんなことをすると言っていた気もする。
「めんどくせぇ。俺は行かな…」
「いやー、楽しみだね!」
「…おい。」
人の話も聞かずに話を進めるコイツは殴っていいだろうか。それにしても、あまりに嬉しそうに話すハンジに、若干の違和感を覚える。
「おい、エルヴィン。どういうことだ。」
「さて、どうしたんだろうな?」
そう言ったエルヴィンの顔は、笑ってはいるが何かを含んだような顔だった。それ以上突っ込んで聞く気にもなれず、そのまま仕事に戻った。
***
「は、初めまして。ナマエです。」
そう言った目の前のガキは、駅で声をかけてきたあのガキで、目を疑った。こいつがエルヴィンの親戚だと?その上、ハンジの知り合いでもあるらしい。こんな偶然があるのか。いや、何かを隠されている。恐らく。
「エルヴィンとハンジの知り合いが 、人違いで俺に声をかけるとは 、すごい偶然だな。」
皮肉をこめてそう言うと、空気が変わった。間違いなく、何かある。だが、それ以上は何も言わせまいとするハンジの態度で、その場は流されてしまった。車を降り、本当に偶然なのかとエルヴィンを問い質したが「偶然以外に何があると言うんだ」と言われ、しらを切られた。納得いかず、そのナマエとかいうガキを見やると、わざわざ重たい荷物を運ぼうとして、転びそうになっていた。
「チッ。阿呆が。」
仕方なく転びそうになった身体を支えつつ荷物を持ち上げた。何をしているかを問えば、ガキのくせに気を遣っていたらしい。そう話している間も、俺の顔を一切見ず、俯いたままだ。それが何故か気に入らず、先に歩き出すと後ろから服を引っ張られる。なんなんだと苛つきながら振り向いた。
「あのっ、ありがとうございます。」
そう微笑む顔は、見たこともないはずなのに懐かしい何かを思わせるような錯覚に陥らせた。思わず呆けたままナマエの顔を見る。不思議そうに首を傾げるこいつは、一体何者なのだろう。それにしても、ころころと表情を変えるこのガキは、見ていて飽きない。
「なあ、俺と、お前の知り合いとやらは、そんなに似ていたのか?」
そう問いかけると、一瞬、表情が強張ったが、すぐに笑顔をつくり、
「いいえ。よく見たら、全然似ていませんでした。私の勘違いで、ご迷惑をお掛けしました。」
と、なんとも悲しげな笑顔でそう答えた。それを聞いた俺は、安堵したような、それでいて何故か苦しい、意味のわからない気分だった。だが、これ以上、こいつのそんな顔は見たくないと思った。この日を境に、どうにもナマエの顔が頭から離れない。
その日以来、夢の中の女は泣くのをやめた。