そばで笑ってくれるなら
人前で手を繋いだりだとか、今の世の中では当たり前で。けれど、そんな当たり前のことが、私にとって凄く憧れで、特別なものだった。前世の私たちに、そんな当たり前は存在しなかったのだから。
「…それにしても、リヴァイさん。ちょっと近すぎませんか?」
「なんだ、嫌なのか。それは悪かったな。」
「い、いえ!嫌じゃないです!嬉しいです!ごめんなさい!」
「そうか。」
今の状況を説明してもいいだろうか。今日はハンジさんのお家で飲もう! 日で、彼女の自宅にお邪魔している。リヴァイさんと私を置いて、エレン達が買い出しに行ってくれた。二人きりになったところで、最近過剰なリヴァイさんのスキンシップ(?)が始まった訳だ。我が家や、彼の家なら全然構わない。だが、ここは人様のお家なのである。にもかかわらず、彼はお構いなしにキッチンに立つ私を後ろから抱きしめているのだ。
「最近、仕事が立て込んでいて構ってやれなかったからな。」
「そんな…。今、こうしてリヴァイさんと過ごせれば十分です。」
とにかく、付き合い出してから彼は私に甘い。いくら忙しくても時間を作ろうと努力してくれたり、会えた時には、とにかく優しく触れてくれる。とても幸せなのだが、以前の付き合い方とあまりに違い過ぎ、戸惑っている。ストレートにいえば、私は、スキンシップになかなか慣れないのだ。そんな私の態度を見れば、彼はニヤリと笑い、さらにエスカレートする。
「いつになったら慣れるんだろうな?」
まぁ、そのままでも十分そそるがな、なんて恥ずかしげもなく言ってのける彼に、さらに私の羞恥心が増す。私を抱きしめていた腕はそのまま上に上がり、ゴツゴツとした男らしい手が、頬に触れ、そのまま口付けようとする。
「ち、ちょっと、リヴァイさん!ここはハンジさんの家ですよ?!」
そう言って、彼の手を静止すれば、耳元で舌打ちが聞こえた。
「チッ。…ナマエ、お前からキスするなら、今は離れてやってもいいが、どうする?」
「それは無理です。」
勿論、即答だ。私は自分から手でさえも繋ぐことを躊躇ってしまう。避けられることがないのは理解しているが、どうしたって恥ずかしいのだ。それなのに、キスなんて出来る訳がない。
「なら、あいつらが帰って来てもこのままだな。俺は全く構わねぇが。」
何を言っているんだ、この人は。そんなのは絶対に駄目だ。恥ずかしくて皆に合わす顔がなくなってしまう。
「それは…困ります。」
「なら、どうするんだ?」
意地悪そうに笑う彼を睨めば、くつくつと更に笑いだす。離れる気は一切無さそうだ。さすがにまずい。私は深呼吸を一つして、覚悟を決めた。
「…目、瞑ってください。」
「仕方ねぇな。」
素直に目を閉じるリヴァイさんの顔をまじまじと間近で見れば、更に体温が上がる。自分もギュッと目を瞑り、顔を近づける。吐息が鼻にかかるくらいに近づいたところで、バタン!と大きな音が聞こえた。
「ちょっと、エレン。なに扉の前で固まってるの?…って君たちは人の家でいちゃついてるのか!まあ良いけど!」
音がする方に振り向けば、真っ青な顔のエレンと、アハハと笑っているハンジさん。ちなみに、私たちは唇を重ねる寸前で止まったままで。
「…空気を読め、てめぇら。」
「兵長!そ、そっちこそ何してるんですか!」
「もう兵長じゃねぇ。何度言わせるつもりだ。」
「あ…すみません。…じゃなくて!」
二人の言い合いを聞きながら、私は、自分の直面している状況を受け入れられずに呆けていた。しかしハッと我に返る。
「も、やだ…恥ずかしい!リヴァイさんの馬鹿!」
そう言って、彼から離れようとするが、強い力で引き止められる。力で敵うはずもないが精一杯抵抗する。
「ほう、やけに反抗的だな。俺が嫌いか?」
「なっ、…ずるいです。」
そんなことは有り得ないとわかって言っているのだから。手首を掴まれたまま、私は俯いた。
「い、いい加減にしてくださいよ!」
人前でいちゃつくなと先ほどとは打って変わって顔を真っ赤にしたエレンの声が響く。
「あはは!いやぁ、ご馳走さま!エレン、ご愁傷さま!」
恥ずかしすぎて顔を上げられない私の頭を撫でるリヴァイさんの表情を窺えば、とても穏やかな表情で。耳元でぼそりと「悪かった。」と言われてしまえば、許してしまうに決まっているじゃないか。本当にずるい人だと思いつつ、こんな日々がいつまでも続きますようにと願った。