昨日、推しアイドルの写真集を予約していた本屋が存在していたはずの場所でばったり不二周助に遭遇したことでテニプリの世界に来てしまったことが判明した私ですが。
……正直私テニプリの原作をまったく覚えてないんだよね。
友達から漫画借りて途中まで読んだだけの知識だから、主人公が通ってる学校の主要人物くらいしか名前覚えてない。
話は逸れちゃったけど、ひょんなことから不二君と友達になったあと、わざわざ家まで送ってもらってしまった。
不思議なことに家までの道のりやご近所さん、住んでいる家すべてが元の世界のままで、もちろん家族も何事もなく過ごしていた。
違うのは、私がこの世界に来たということだけ。
「(なんだか複雑な気分だ)」
平凡娘奮闘記
家族はもちろん、家の造りも家具の配置も自室の模様も何一つ変わらないのに、壁にかけられた紺色を基調としたセーラー服だけが違和感の塊でしかない。
違和感の塊であるセーラー服を身にまとって、玄関にてスニーカーをはきながらふと全身鏡に映る自分の姿を凝視する。
当然のごとく「行ってきまーす」とリビングにいるであろう母に声をかけて家を出る。
さて、近所周辺の地形は元の世界のままだけど果たして学校までの道のりも同じなんだろうか。
「(とりあえず、歩いてみるか)」
一応、迷っても大丈夫なように早い時間には出たから遅刻の心配もないはず。
いつも通りの学校へと向かう路(みち)思い描いて足を進めてみる。どうやら、通学路も元の世界のものと同じらしい。
見慣れた景色。だけど私が住んでいた世界じゃないと思うと再び複雑な気分になってしまう。
……って言ってても、元の世界に帰るまでは黙って過ごすしかないのだけれど。
「(ようはこの世界に慣れればいいんだよね)」
せっかくテニプリの世界に来たのだから逆に楽しんでしまえばいいのかもしれない。
「うん、それがいい!」と1人納得していたとき。
「泰橋さん」
「あ、不二君」
昨日と同じく、学ランにラケットバッグを肩からかけた不二君が数メートル後ろに立っていたが、気づけばすぐ隣まで来ていた。
「おはよう。早いんだね?」
「道に迷っても大丈夫なように早く出て来た。不二君は……テニス部の朝練?」
「ううん。今日は朝練ないんだ」
「そっか」と呟いてから何となく横に並んでいる不二君の肩に目が向いた。
……ちょうど私の目線の高さにあるんだけど、不二君って意外と身長高いんだなぁ。
私の視線に気づいたのか、「どうかした?」と不二君が首を傾げている。
「ご、ごめんジロジロ見ちゃって……」
「それはいいんだけど……。どうかした?」
「不二君って身長いくつあるのかなぁって思って」
「身長……?そうだな、165はあると思うけど」
「それで165しかないの!?もっと大きいと思うよ!?」
「このあいだ保健室で計らせてもらったんだけど、そんなもんだったよ」
「う、うそぉ……」
「僕のことより……――、泰橋さんは身長いくつなの?」
「……――。」
聞かれると思ってた。思ってたけども!
……まさか2年前に測ってからずっと142pのままって言ったら絶対……、絶ッッッ対笑われる!
「うん、まぁ、ご想像にお任せいたします?みたいな?」などゴニョゴニョ誤魔化していたら隣から聞こえてくるクスクスという笑い声。
すでに笑われている……!
「僕も教えたんだから、泰橋さんも教えてよ。ね?」
「お、女の子にそういうこと聞くのは、よくないんじゃないかなぁ!?」
「別に体重聞いてるわけじゃないんだから」
「……絶対笑わないって約束してくれる?」
「聞いてみないとわからないかな」
「やっぱ言うのやめる!」
元の世界でも男子から「お前いつまでも小学生のままじゃーん!」とか散々バカにされてきたんだ……!
わざわざ自分から笑いの種を蒔く必要はない!
「絶対言わない!」と1人騒いでいれば、「冗談だよ。絶対に笑わないから」と眉を下げて不二君が苦笑いをしていた。
不二君の言葉を信じて、限りなく小さい声で「145p未満」と答えると。
「……嘘でしょ?」
「嘘じゃないよ!?」
「もっと小さいんじゃないかと思って」
大まかな数字で答えただけなのに嘘とか言われるし挙句「泰橋さんサバ読んでない?」とまで言われて若干だけど泣きたくなった。
確かに少しサバ読んでるけど何もはっきり言うことないじゃんか……!
「もう少しで145pになる予定なんですー!」
「あはは、ごめん」
「(あははごめん!?)」
謝る気ないだろ!
ジトリと見てやれば苦笑いをして「ごめん」と言った不二君は「でも本当に小さいよね」と続けながら私の頭頂部あたりに視線を向けた。なんで改めて小さいって言われたの私?
「小さいのは認める。身長順に並んで2番目以降にいったことないし」
「そうなんだ。でも僕も男子の中では小さい方だから、泰橋さんの気持ちわかるなぁ」
「うそぉ!?」
「テニス部の2年の中だったら、1番僕が小さいんじゃないかな」
平均身長どれだけ高いんだよテニス部2年生。皆怪物か何かなのか?
そう言えば、その話で思い出したけど不二君が2年生ってことは今はまだテニプリの原作が始まる前ってことかな。
低身長というコンプレックスを抱えた者同士――不二君は私に気遣って話合わせてくれてたんだと思うけど――の会話を続けているうちに大きめの校舎が見えてきた。
……あ、あの外観はアニメのオープニングで見たような気がする。
元の世界で通っていた中学校よりも立派な校舎を見上げていたら思わず「ほぇー」と変な声が出てしまった。
慌てて飲み込んだけど、隣で不二君が口元引き攣らせながら肩を震わしてるからばっちり聞かれたんだろう。
「……我慢しないで笑っていいよ」
「ごめッ……、だって……――、ほぇーって……ッ!」
「いっそ思いっきり笑ってもらった方がこっちも気が楽だよ!」
たしかに変な声を出した私が悪いんだけども何をそんなにツボにハマることがあるのか。
いまだ笑いながら昇降口へと向かって歩く不二君の背中を睨みながら着いて歩いていると。
「……――不ッ二ー!」
数メートル後ろから聞こえてきた早朝だというのにやたらと元気な声。私が呼ばれたわけじゃないけど、なんとなく振り向いてしまった。
「おっはよう不二!」
「おはよう英二。今日は朝練ないのに早いんだね」
「でっしょー?本当はゆっくり来ようかとも思ったんだけどさ、なんとなく早く来ちゃって……――、あり?」
「…………。」
不二君と会話をしていた、外はねの赤髪とほっぺの絆創膏が特徴的な男子と目が合ってお互いに何度も瞬きをしていたけど。
「不二、泰橋さんと付き合ってたの?」
「なッんでそうなるの!?」
「え、違うの?だって朝一緒に来たんでしょ?」
「違うわ!」と強く否定すれば、「なぁんだ」と人懐こい笑顔を浮かべる絆創膏男――もとい菊丸英二。
一瞬笑顔にときめいてしまったじゃないか……!
というか、なんで菊丸君が私のこと知ってるんだろうと考えていたら、不二君が汲み取ってくれたのか「英二は泰橋さんのこと知ってるの?」と聞いてくれていた。
「知ってるよん!だって泰橋さんちっちゃくて有名じゃん!」
「ちっさくて有名!?」
「……英二。いくらなんでも彼女に失礼だよ」
まさか身長が小さいっていうだけで有名人だとは思わず悲しみに暮れている横で「失礼だよ」と菊丸君を諭してくれている不二君。優しい……!
でもさっき「もっと小さい」とか「サバ読んでない?」って言われたこと忘れてないからな。
「それもそっか。ごめんね泰橋さん」
「い、いや……。小さいの事実だし……」
「き、気にしてないので」と平気を装ってみるけど精神的ダメージが半端ない。
「(周りから見たらやっぱ私ってそんなに小さいのか……)」
明後日の方向を見ながら「はは……」と乾いた笑いを零したからなのか、不二君が話題を変えるかのように「泰橋さんは英二のこと知らないよね?」と聞いてきた。
テニプリの主要登場人物としてもちろん知ってるけど、この世界のことを何も知らない設定で通すことに決めているから「うん。知らない」と頷いておく。
「んじゃ自己紹介!俺、菊丸英二!不二とおんなじテニス部だよーん!よろしくっ!」
「知ってるみたいだけど、泰橋若愛です……。よ、よろしく?」
「そう言えばさ、不二ってばなんで若愛ちゃんと一緒に来てたの?」
「(まさかのいきなり名前呼び)」
ナチュラル過ぎる名前呼びに動揺が隠せないあと動悸がうるさい。
「乙女ゲームだって時間かけないと名前呼びしてもらえないのに……!」って言いたいけど菊丸君の様子を見る限り何も考えてなさそうだからスルーしておこう。
「たまたま会ったからだけど……。どうして?」
「だって今まで一緒に来るくらい仲良かったわけじゃないじゃん」
不二君から聞いた話ではこの世界での”私”と彼の交友関係ってクラスメイトで挨拶はするけどあまり喋ったことはなかったらしいし。
そんな私たちがたまたま会ったくらいで一緒に登校しているのは菊丸君からしてみれば不思議なことこの上ないだろう。付き合ってるのかと勘違いされても仕方ない。
昨日の出会いの話をざっくりとすれば菊丸君も納得するだろうか。そう考えていたら不二君が先に口を開いていた。
「昨日の帰りに泰橋さんと会って、そう言えば話したことなかったなぁって思ったから僕から話かけたんだよ。話してみたら泰橋さんってすごく面白い子だったから――、
――もっと仲良くなりたくて」
「ね?若愛ちゃん」と言って顔を覗き込んでくる不二君。
しかも菊丸君に続いて不二君もまさかの若愛ちゃん呼び。美形男子への耐性なさ過ぎて心臓爆発しそうなんだけど。
アホみたいに動揺してることがバレているらしく「あれ、若愛ちゃん顔赤くなってない?」と言いながら不二君がさらに顔を近づけようとしてきたので腕にグーパンしておいた。
私が殴ったところをさすって「殴ることないのに……」と痛がるフリをしている不二君は、ものすごく楽しそうな表情をしていた。敢えて例えるなら――
新しいオモチャを見つけた子供みたいな。
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