不二君、菊丸君との3人で予鈴がなるまでの長い時間を話し込んでいた私たち。
世のお姉さま(またはお兄さん)たちを虜にしてきたイケメン2人と平々凡々な私が仲良く喋っているのは不思議な光景なようで、すれ違う度に好奇の目で見られていた気がした。
さて、教室に走ったのはいいものの、自分の席がわからなくて入口で立ち止まっていたら不二君が「あそこだよ」とさりげなく耳打ちしてくれた。
不二君の優しさに感謝しながら教えてもらった席につく。……あれ、この席って元いた世界で通ってた中学と同じ場所では。よく見れば不二君以外見慣れた顔が並んでいるし。
もしかするとただテニプリの世界に放り込まれたというわけではないのかも、なんて考えていたら背中をチョンチョンとつつかれた。
振り向けば元いた世界で1番仲の良い友達――あだ名はりんごがニヤニヤ笑っている。
「ちょっとちょっと、朝から不二周助と他クラスの菊丸英二とお喋りなんて。どうしたの急に?」
「どうしたのって言われても……」
「どっちかとお付き合いでも始めた?」
「まさか」
男女2人で話してたら皆お付き合いしてることにでもなるのか?
「えぇー?すごい楽しそうに喋ってたからてっきり恋仲にでもなったのかと思ったんだけど」
「昨日不二君に会って意気投合したからその流れで菊丸君とも喋ってただけ!」
「付き合ってるとかじゃないから!」と言えばりんごは「なぁんだ」と笑っていた。
それから他愛のない話をしていたけど本鈴が鳴って担任の先生らしき人が教室に入ってきた。どうやら担任までもが前の世界と変わらないらしい。
「(何もかもが元いた世界と同じで、過ごしやすいなぁ)」
少し違うとすれば、ここがテニプリの世界でその登場人物がいること。そして世界に合わせて舞台が作られていること。
住む世界はもちろん、通う学校も身にまとう制服も違うけど、私の身の周りの人たちは何も変わってない。
「(……やっぱ、複雑な気分になるな)」
そう思っていると中学2年の国語の授業が始まった。
今まで取ってきたであろう自分の国語のノートを開いてみるとお世辞にも綺麗とは言えない見慣れた文字の羅列が並んでいる。
「――んじゃ、このかかり受けの問題を……泰橋。解いてみろ」
「え」
授業の進み具合も同じなんだろうか……。なんて遡ってノートを見返していたのが悪かった。
まさか当てられるとは思ってかったから何を問われてるのかさっぱりわからない……!
「(ここは素直に謝ろう)……聞いてませんでした」
「単に背ぇ小さいから黒板見えてないだけじゃねーの?」
「誰だよ今小さいって言った奴!表に出――」
「やかましい。泰橋、聞いてなかった罰として授業終わったら職員室来いよ」
「え、えぇ……」
「授業続けんぞ」と黒板に向き直り他の生徒に私に当てていた問題を解かせている先生。
「呼び出しか……」と項垂れていたら背中を再びつつかれて、振り向けばりんごに「ドンマイ」と苦笑いされた。
なんとなく、不二君の方を盗み見てみる。あ、頬杖つきながらこっち見ていらっしゃる。
必然的に目が合ってしまうわけで、誤魔化すためにも無理やり笑顔を作っておこう……。
「(あ、あはは……)」
「泰橋、不二とイチャイチャするのはいいけど授業はちゃんと聞け」
「いちゃ――!?イチャイチャなんてしてない!」
「それなら真面目に授業聞いておけよ」
教室内で笑いが起こる中「また問題当てるからな」という先生の言うことを聞き入れ、どうせ脅しだろうとは思いつつも真面目にノートを取り続けること数十分――。
「――……え、マジで職員室行かないといけないの?」
「当たり前だろ」
授業終わりの鐘が鳴ってからすぐに「泰橋、行くぞ」と手招きをされてしまった。
出席簿と辞書、その他諸々を持って教室を出て行こうとする先生に「マジで罰受けるの?」と聞けば「大マジ」と返された。
教室から出る前にりんごの方を見て目で「着いて来て……!」と伝えてみたけど「行ってらっしゃーい」と笑顔で手を振り返された。薄情者が……!
先生の後ろにくっつきながら歩いて歩くこと数分。職員室内の一か所の机のところで止まらせられた。
「よし、これ持っていけ」
「……ノート?って重たッ!?」
渡されたのは30冊以上あると思われるノートの束。急な重さに思わず落としそうになったのを短い腕でなんとか抑え抱え直す。
「こ、これが罰……?」
「そうだ。それ2−6に持っていくだけだから。簡単な罰だろ?」
「これ結構重いんだけど……」
「かよわい私1人じゃ2−6まで腕が持つかどうか……!」って重たい1人じゃ持てないアピールをしてみる。いやマジで重いんだけど。
しかし先生にはアピールは伝わらなかったようで(というかスルーされた)「お前が授業聞いてなかったのが悪い」「休み時間終わる前にさっさと行け」と職員室から追い出されてしまった。
「――……お、重い」
ひぃひぃ言いながら階段を上ってきたけど、2−6の教室までの道のりは長い。
数冊ならまだしも30冊以上の束になったノートを全て抱えてる私の短くて非力な腕がすでに限界を迎えてプルプルいっている……!
「(せめて、せめて抱え直したい……!)」
抱え直そうと片足を上げて太腿にノート束を乗っけようとしたらバサバサと音をたてて床に落ちて行くノートたち。
「(やってしまった――!)」
慌ててしゃがんでノートを拾っていると、私のじゃない手が一緒にノートを拾い集めてくれていた。
「……よし、これで全部かな?」
「あ、ありがとございま――!?」
ノートを拾うのを手伝ってくれた人にお礼を言うべく顔を上げると、これまた見たことのある人物が目の前にいて思わず目を見開いてしまった。
こ、この特徴的な髪型は……!
「(おおお大石秀一郎!)」
青学男子テニス部副部長の大石秀一郎が散らばったノートを一緒に集めてくれていたらしい。
「ん?どうした?」
「え!?う、ううん!手伝ってくれてありがとう!」
「いいんだよこれくらい。それよりも君……、」
「?」
一緒にノートを拾ってくれたこのへの感謝を伝えれば人の好い笑顔を返してくれた。
変な髪型だと思って油断してた不覚にもときめいた。
不二君菊丸君とは違った魅力にドキドキしていたけど、私を見て大石君が首を傾げているから一緒に首を傾げてみる。
「ど、どうかし――」
「君……一年生かい?」
「…………へ?」
へ?
「(い、今なんて言われたんだ……)」
聞き間違いじゃなければ一年生かどうかって聞かれた気が……。
「いや、私は――――」
「これ2年生のノートだろ?1年なのに先輩のノート運ぶなんて偉いな」
「だから――」
「先生も人が悪いよなぁ。1年に頼むなんて」
「(話聞けよ!)」
「えらいえらい」と私の頭を撫でている大石秀一郎に「違う!」って言っても聞いてくれていない。
大石秀一郎ってこういうキャラだったか!?
私の主張が通じることはなく「俺も手伝うよ!」とノートの束の半分以上を私の腕から奪い階段を上り始めた大石君。
「いいです!」と何故か敬語で止めようとしたけど「先輩の好意は素直に受け止めるものだよ」と笑顔で言われてしまい断るに断れなくなった。あぁ、もう……!
「……じゃ、お願いします」
「あぁ!たしか2−6までだったよな」
2年生の教室が並ぶ廊下までやって来たところで「もうすぐだ」と言う大石君を横目に、どうやって誤解を解いてもらうか考えていたら「あ、大石だ!」という元気な声が聞こえた。
「それに若愛ちゃんも!さっきぶり!」
「あ、菊丸君」
「英二……、この子のこと知ってるのか?」
手を振りながら近づいてきた菊丸君と私を見比べて大石君が不思議そうな顔をしている。そんな彼に菊丸君は「何言ってんだよ」と首を傾げていた。
「俺話したことあるじゃん。泰橋若愛ちゃん!」
「泰橋若愛……。――あ、泰橋さん!?あの小さくて有名な!?」
「(ち、小さくて…………!)」
「こら大石!そんな風に言ったら若愛ちゃんに失礼だろ!?」
「若愛ちゃんに謝れ!」と頬を膨らませて大石君に説教をしてくれる菊丸君。
「き、菊丸君……!」と彼の優しさに感謝したいところだけど今朝同じこと言ってたの忘れてないからね私。
「ご、ごめん!そんなつもりじゃ……、って言うか!英二がそう教えてくれてたんじゃないか!」
「えぇー?そうだっけ?」
「そうだよ!」
「(そうだろうな)」
菊丸君からの刷り込みとは言え、大石君が私を1年だと勘違いしていたことは事実だということで何度も「ごめん泰橋さん!」と謝られたけど散らばったノートを拾ってくれた上にここまで運ぶのを手伝ってくれたのでチャラでと伝えたのだけど。
「でも俺、さっきえらいえらいって頭撫でちゃったし……」
「本当にごめん!」と勢いよく頭を下げる大石君。そう言えば頭撫でられたんだったな……。
それも含めてチャラで、と言おうとしたものの。
「大石、若愛ちゃんの頭撫でたの!?」
「お、思い出させるなよ英二!」
「いいなぁ!俺も撫でたい!」
「……は?」
は?
「いい子いい子」
私の頭をポンポンと頭を笑いながら撫でてる菊丸君。しかも「えらい」じゃなくて「いい子」になってる。
これは子ども扱いという名のイジメなのでは?
「え、英二……。俺が言うのも何だけど、泰橋さんに失礼じゃないか?」
「だって若愛ちゃんちっちゃくて可愛いんだもーん」
「小さくてって強調するな!!!!」
なんなんだよ皆失礼だな……!
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