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いつかのように走って走って。けれど、あれはつい一昨日のことだったっけ。青々した葉を茂らせている木々の合間を走り抜けて、始終静寂な森から、人の話し声や物音のする町へ飛び出た。
そこで、先を走っていたチカが、どっちへ行くのかと立ち止まってこっちを振り返る。

「キトさんちに行きたいの」

チカは頷いて、再び走りだした。キトさんちは森から見える位置にあるので、少し行けばすぐに着いた。
頼ってもいいという言葉をそのまま受け取ったが、本当にいいのだろうか。もしかして社交辞令で言ったのではないかと不安を抱えながら、チャイムを押した。

「はーい」

キトさんの声が聞こえて、バタバタと近づいてくる足音にドキドキしつつ一歩下がって戸が開くのを待つ。……う、そろそろ、服に染みてきてるかもしれない…。
ヤバいと頬を引くつかせていると、ガチャリと目の前の扉が開いて、昨日会ったばかりのキトさんが姿を見せた。

「あ、あの……」
「あら、ナツミちゃんじゃないか」
「ああああの…!」

断られてしまうだろうかとびくびくしながら、キトさんをしっかりと見た。

「…せ、生理用品を…!頂くことは、できません、か……」

昨日知り合ったばかりの人にこんなことをいきなり頼むのは不躾ではと思い始めて、言葉が尻すぼみになる。だけど目だけは合わせたまま、キトさんの様子をうかがった。
キトさんは心底驚いたように目をぱちくりさせて、ふっと口元をゆるめた。

「そりゃあ大変だねえ。いいよ、取り敢えず入って入って」

促されるがままにキトさんの家にお邪魔する。チカも興味津々にあちこちを見ながら、私の後について玄関に入った。
バタン、と後ろでドアが閉めたキトさんが前に出てきて、案内してくれるのについて行く。
廊下の突き当たりの部屋に入ったところで、待っていてと言われたので、そこでおとなしく待機。部屋から出ていったキトさんは、少ししたら整理用品と下着を持って戻ってきた。

「はい、これ。私の下着で良かったら使ってちょうだい。おばさんくさくてごめんなさいねえ。でもちゃんと新品だから」
「いえ!ありがとうございます、助かります!」

キトさんからそれらを受け取り、頭を下げてお礼を言った。

「ああ、そうだ。ついでにシャワーを使いなさい。汚れた体が気持ち悪いでしょう?」
「あ、え、いいんですか?」
「ええ。こっちよ」

手招きされてキトさんに付いて行き、お風呂場に案内された。浴室の扉を開けて簡単に説明をしてもらって、それから、とキトさんは言葉を続けた。

「汚れた下着もここで洗っていいからね。タオルはそっちのを使って。で、脱いだ服はそっちに置いてて。替えの服は後で持ってくるから」
「はい。すみません、ありがとうございます」
「ピカチュウはどうする?私と一緒に向こうで待ってるかい?」

聞かれたチカはキトさんと私の顔を交互に見てから、私の方に寄ってきて足にくっついた。

「ピカチュ」
「そう。なら、一緒に入っていらっしゃい。シャワーを浴びるだけじゃなくて、置いてあるものはなんでも使っていいからね」
「はい」

お風呂場から出ていくキトさんに頭を下げて、扉が閉まった音を聞いた後、チカを見下ろした。

「じゃあ、入ろっか」
「チュウ」




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