その翌日、霊界にきた少年は例の婚約発表の映像をながめ
静かに息をはいた。

「コエンマ様、これだけでは俺の口からは何とも言えません。
ただ、見ている限りでは思考を鈍らせる……もしくは相手の言いなりとなる
なんらかの薬物や幻覚剤を使用されている可能性が高いと思います」

蔵馬の言葉に、コエンマも頭を抱えた。

「やはりか……あの会場での紅葉は誰が見ても様子がおかしかった。
しかし、それを記憶喪失だと言えば誰も追及できまい」

コエンマとぼたんではあの数の報道陣をよけて
少女を奪還することは不可能だった。

もちろん、何も手をうっていないはずもなく……すでにコエンマが持つ
霊界の最高権限を用いて、彼女を早急に人間界側に返すよう請求済みだ。
しかしその請求は一日経ったくらいでとおるはずもない。

ロメオは地位も、人柄も、なによりルックスも優れている。
万が一にも恋仲に発展し、子でも儲ければ途端に人間界側に彼女を連れていくことは厳しくなる。
だからこそ、コエンマは誰よりも焦りと責任を感じていた。

霊界の法によりよほどの理由がない限りは、母子を引き離すはことできない。
それを告げると、考え込んでいた蔵馬が口を開いた。

「コエンマ様もお気づきだと思いますが、この婚約自体が仕組まれていたんでしょう。
婚約発表までの段取りがあまりにもよすぎて不自然です。

最初から紅葉を狙った犯行なのは間違いない。ただ俺は霊界の事情にはさほど詳しくありません。
彼女が狙われたことに関して、コエンマ様は何か思い当たることなどありますか?」

136(189)
back
彷徨いアリス