名前を呼んで、そでを引いて
唇をとがらせ、いじけてみせて。
あなたがいつか美しいと言ってくれた髪は伸ばし続け
可愛いと言ってくれた足は小さくなってきた靴に押し込んで。
そのどれもが効果はあまりなかったけれど。
少なくとも、あたしはいつかまたあの頃のように
兄の瞳を独占できると息巻いていた。
いつか見た本のお姫様のように
けなげに待ち続けて、毎晩月や星に祈った。
あたしに返してくださいと。
だからこそ、兄から婚約の話を聞かされたとき
頭から冷たい水をかぶったように身体が冷えていくのを感じた。
あたしが大きくなったのがダメなの?
それとも、はじめからあたしではダメだったのだろうか。
そう言いたくて見上げた顔は、とても残酷なほど美しくて
久しぶりに目が合った兄の瞳は、底の見えない闇に包まれていたから。
あたしは、ただ息をつくだけで精一杯だった。
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彷徨いアリス