よし……桑原さんは今のところ命にかかわるほどのケガじゃない。
ならこのまま、ぼたんに任せていてもいいはずだ。
私が出来ることは限られてるけど……でも、もしも……。
頭によぎるのは最悪の結末。幽助が倒された場合。
私も多少の攻撃は使えるが、幻海師範レベルではない。
あくまでも基礎的なことの応用だったり、防御や補助メインの技を
どうにか攻撃に転用しているにすぎない。
それでも、もし万が一幽助が負けた場合……ううん。
もしも乱童が桑原さんのように幽助の命まで簡単に奪おうとしてきた場合は
試験だろうがなんだろうが、とにかく体をはって止める覚悟をもたなきゃ。
「何十年ぶりでしょうか……人間相手に乱童の姿で戦うのは…」
倒れていた少林から意味ありげな台詞と、凄まじい妖気が流れてくる。
久しぶりにこんな強い妖気にあてられ、初心者の幽助だけでなく
私まで思わず身体がこわばった。
地面が音をたて、さけるチーズのように裂け目ができて広がっていく。
そこからとうとう正体を現した乱童が立ち上がったかと思えば
一瞬で私達を圧倒した。――妖気もだが、明確な殺気。
大勢の人間の命を簡単に奪ってきた自負やそこに罪悪感のかけらすらもなく
むしろ童子(こども)がおもちゃを欲しいとねだる感覚で
命、そして技までを蹂躙しつくしてきたという絶対的自信が溢れていた。
真っ赤な髪は蔵馬を彷彿とさせるが、彼のように燃えるような赤じゃない。
どこか人工的で作り物のような、生命の感じられない赤髪。
血が通っているのかすら疑わしいほど青白い肌に不気味な刺青が顔や体に施されている。
彼は不気味な笑みで幽助をみた後、すぐに私に視線を移した。
まるで幽助が倒れた後は私を襲うとでも宣言するかのような挑発的な視線に
グッと唇をかんで、睨みつける。そんな私を庇うようにボロボロになりながらも
幽助の背が私を乱童の視界から隠した。
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彷徨いアリス