「えっと……それでは、帰りを急いでいるので失礼します」

得意の眉(まゆ)をさげた笑みをうかべて、私は足早に相手の横を通り過ぎた。
少年は一瞬目を丸くすると、すぐに瞳を怪しく細めて笑みを張り付ける。

「ええ、そのようですね……」

少年の横を数歩通り過ぎると、やはり思い過ごしだったかと息を深く吐(は)いた。
危ない、被害妄想で相手を怪しい人って決めつける所だったよ。

あ……そうだ。彼にも伝えなきゃ………。

今度は、心の底から安心しきって頬(ほほ)を緩めながら私は振り返り彼に言った。


「ここ……今の時間帯は危ないらしいので……どうかお気をつけっ――」


あれ?こんなに地面が近かったっけ?――それに、視界がぐるりと回ったかと思うと
ぷつっと途切(とぎ)れて暗くなった。

それを確認した所で、私の思考も途切れる。


倒れた丸く小さい身体に、覗(のぞ)き込む少年の影が落ちた。

「ええ……ご忠告(ちゅうこく)感謝(かんしゃ)します。――身をもってお伝えしてくれるなんて、本当に面白いお嬢(じょう)さんだ」

クフフと独特の笑いをこぼし、皮肉めいた台詞(せりふ)が少女に届く事はなかった。



13(431)
→|back

彷徨いアリス