それは本当に一瞬だった。
長い腕をしならせて、手首のグリップを返して硬いトンファーの鉄が
骸の顔面を
直撃して、彼は大きく後方の暗闇に吸い込まれていく。
「うそ……」
まるでスローモーションで人がこんなにも簡単に飛んでいくのを
どこかキレイとすら思いながら、飛び散った血しぶきの
眩しいくらいの赤で
私はハッと我に返った。弾かれたように骸が飛んで行った方の暗闇から
視線を雲雀に戻すと、肩で息をつきながらドクドクと骸の血と混じって
沢山血を流した彼が床に手をついて倒れ込んでいた。
「ひっ……雲雀さん!?――
大丈夫ですか!!」
私の声が届いたのか、ゆっくりと上半身だけで私を振り返る。
頭から物凄い量の血を流していながらも、その切れ長の
黒曜の瞳だけは
不敵な光を
称えていた。
唇は勝利に余裕そうな笑みを浮かべている。
釣られて私もなんだか泣きたくて、笑いたいような変な気分になって眉を下げた。
「ハッ……僕があんな奴に負けるわけないだろう」
「ええ……そうですよね。天下の雲雀さんですもんね」
しかし、私の笑みはすぐに悲鳴に変わる。
さっき倒された骸が起き上がり、雲雀の後ろから攻撃を仕掛けていた。
雲雀は立つのがやっとで気づいていない。
嫌だ。そんな……どうしよう!?スローモーションで骸の攻撃は雲雀の頭にむかってくる。
嫌だ……雲雀さん!!
「やめて!!!!」
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彷徨いアリス