綺麗な指先が、こちらに伸(の)びてくる。

嫌だ、怖い。来ないで……。
丸みを帯(お)びた顎(あご)に血塗(ちぬ)られた指先が強引に添(そ)えられる。
グイっと無理やり視線をあげさせられると、目の前の少年の美しく弧(こ)を描いた唇がゆっくり動くのが見えた。

「僕の瞳を見て下さい」

いっけん聞くと、熱い台詞だが……少女の大きな瞳は恐怖に歪(ゆが)んでいた。

まるで麻酔(ますい)をしたように思考(しこう)も、身体の自由も効かなくなってきて怖い。
嫌だ、何をするの……!?――頭の中は恐怖でいっぱいだったけど
後ろの少年を思うと退(ど)くことなんか出来ない。

困ったような、かといって誰を責めていいのか分からない声色(こわいろ)で「やめて……」とこぼした。

「なっ……」

少年が驚いたように、何度も瞬(またた)きを繰り返す。
私の後ろの雲雀も、伏せた顔を起こして驚いたように目を見張っている。

「なんで……効かない」

心底驚いたように呟(つぶや)いた彼が、炎の中でぐらりと歪(ゆが)んだのは次の瞬間だった。

「え……」

先に倒れたのは私ではなく少年だった。



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彷徨いアリス