「あ……あれ、あなたはえっと………」

「やっやぁ!!――望月 美緒さん……だっけ?」

どもりながらぺこぺこと頭を下げたのは、顔だけ見慣れた同級生だった。
えっと、名前が確か……。

「あっ!!そうだよね?僕たち同じクラスになったことなかったから知らないのも無理ないか。
僕は入江 正一いりえ しょういちって言います。君のクラスのとなり特進とくしん科に通っているんだけど……」

そこまで言いかけたところでああ!と大きく頷いた。
なるほど、どうりで見た事があったわけだ。目の前のどもり気味で親近感しんきんかんを覚える彼は
わが校の天才中の天才でよく名前を見聞きする機会も多かった。

私は普通科の情報処理選択じょうほうしょりせんたくだったから、特進科の彼とは同じクラスにはなることはなかったんだけど
彼が、どうかしたのだろうか。緊張したように頭をいて
何度も申し訳なさそうに何か言いかけては謝ってを繰り返している。

「あっえっと…あの、こっ……これから美緒さんは変な赤ん坊とかに出会うかも知れないんだけど」

え……赤ん坊?――私はとっさにバカと天才は紙一重かみひとえという言葉を思い出した。
私の視線に気づいたのか、はたまた自分で言って居たたまれなくなったのかは謎だが
お腹を押さえて、うなるようにまくしたてた。

「とっ……とにかく、これから色んなことが一気いっきに起きるかも知れないけど
ちゃんと向き合って欲しいんだ!!――じゃっ、じゃあ……そういうことだから」

「えっ……あっあの!!入江さん!?」

それだけまくし立てると逃げるように去った少年が、正一でいいよと走って行ったので
思わず面食めんくらって、何だったんだろうと正一の言葉が頭にリフレインするのをその時は疑問に思わずに過ごした。

逃げるようにさった正一が、ごめんねと呟いたのは少年だけが知る文字上の運命のせい。

『同じ中学の望月 美緒はこのままだと……』

そこから先はにじんでいたが、少年は自分が与えられた役を演じるしかないと腹をくくった。



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彷徨いアリス