「うそだ、うそだ、これは夢だ」
うつむいて丸くなり現状を受け止めきれずに
ぶつぶつ言いながら、頭を抱えていると
低い艶のある声に名を呼ばれて振り向く。
「なんで私の名前を……?」
後ずさりながら問いかければ
彼は気づかないのと少しだけ不満げな顔をした。
しかしすぐに何か思いついたのか怪しく笑うと
私の手の平をとり、唇を落とした。
男のゴツゴツした手とは裏腹に柔らかい唇の感触に
カーっと顔に熱が集まる。
「えっえぇ!?」
思わずベッドからずり落ちそうになる私に
青年が慌てて抱き留める。
「夫の名前を忘れるとは……噛み殺されたいのかい?」
あ……その台詞、と思ったのは束の間
片手だけで軽々と引き寄せられた。
彼の胸に抱かれながらわずかに香る汗のにおいやら
男性フェロモンやら何やらで頭がクラクラする。
383(431)
→|
back
彷徨いアリス