「うそだ、うそだ、これは夢だ」

うつむいて丸くなり現状を受け止めきれずに
ぶつぶつ言いながら、頭を抱えていると
低い艶のある声に名を呼ばれて振り向く。

「なんで私の名前を……?」

後ずさりながら問いかければ
彼は気づかないのと少しだけ不満げな顔をした。

しかしすぐに何か思いついたのか怪しく笑うと
私の手の平をとり、唇を落とした。

男のゴツゴツした手とは裏腹に柔らかい唇の感触に
カーっと顔に熱が集まる。

「えっえぇ!?」

思わずベッドからずり落ちそうになる私に
青年が慌てて抱き留める。

「夫の名前を忘れるとは……噛み殺されたいのかい?」

あ……その台詞、と思ったのは束の間
片手だけで軽々と引き寄せられた。
彼の胸に抱かれながらわずかに香る汗のにおいやら
男性フェロモンやら何やらで頭がクラクラする。



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彷徨いアリス