プロローグ

「今日は……いない……よね?」

とっくに登校時間の過ぎた通学路。
こっそりと電柱でんちゅうの影から顔を覗かす少女がいた。
素早く左右を確認し、何度目かの安堵あんどのため息を吐いた美緒が、そろりと丸みをおびた短い右足を踏み出す。

それと、ほぼ同時であった。
聞きなれた不機嫌そうな声が、背後から直下型ちょっかがたで降ってきたのは……。

いっ……いつのまに後ろに!?――という、もうほぼ脳髄のうずいに染みついたツッコミ(中二病)を何とか飲み込みながら
私は一瞬、聞こえなかったふりをして進もうとしたが……。

「君……何してるんだい?」

やはり、見逃みのがしてくれないですよね……。

今度はゆっくり、更に不機嫌みを帯びて彼の声が釘をさす。
そのコンマ数秒でSIRENの謳い文句「どうあがいても絶望」が脳内テロップで流れたのは言うまでもない。

ぎくぅっと効果音がつく程にびくつき……少女の哀れな程小さく丸い身体が、小刻こきざみに震え出す。
油をさし忘れたブリキのおもちゃのようにギギギギと身体ごと恐る恐る振り向くと
予想通り、不機嫌そうに眉を寄せた美形の少年のこれまた不機嫌そうな視線にぶつかった。

思わずうわずってつぶれたカエルのような悲鳴を小さくあげて、ゴキブリのようなカサカサした動きで、後ろに下がる。

「あっあっ……どうも、はい。おはようございます、雲雀さん」
あまりのドモリ具合に脳内で軽く、小林製薬かよっとツッコミむ私。

冷や汗と動機がとまらない。
着信アリの主題歌まで聞こえてきそうだった。

普段なら美少年は大好物なんだけど、彼だけはどうしても苦手だ。



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彷徨いアリス