If I were a bird, I could fly to you.
!設定が迷走、暴走しています。
ヴィクトルと初めて出会ったのはサンクトペテルブルクの街だった。日本から来て初めてのロシアの冬。手袋を落とした私の後を追いかけて手袋を渡してくれたのが初めて会った日のことだった。まさか生きる伝説とも呼ばれる、また、世界中の女性を虜にする彼にこんな所で出会い、そして彼女になれるなんて昔の私は思いもしなかった。
さて、かなり色々なことを忘れるヴィクトルだけれど、誕生日はやたら盛大に祝ってくれたし、そうそう、ロシアとは違うものであるけれど...と言って日本のバレンタインについて話すと、ヴィクトルはバレンタインの日を毎回楽しみにしてくれていながらも、毎回私を驚かせるようなサプライズをしてくれたものだ。
ところが、ヴィクトルは一月の下旬から二月の半ばまでコーチをしている勝生選手と一緒に長谷津に戻る予定を立てていた。勿論、そのことに不満を持つつもりはなく、ただ、半ばに帰ってくると言いながら全く連絡をしてこないことは不満に思っていた。ここまで連絡が来ないと安否も不安になる所だが、SNSの方ではまだ長谷津にいる、というような内容を載せているので無事ではあるらしい。
一応、帰ってくるかもしれないと思ってプレゼントは用意してみたものの音沙汰がない以上、今日は一人で過ごすしかないようである。
と、思っていたのが朝の6時。その12時間後である夕方の6時、夕飯の支度をしようとしていた所で電話がかかってきた。
「もしもし?なまえかい?ギリギリ間に合ったかな。今年のバレンタインは一緒に居られなくて申し訳なく思っているよ。折角プレゼントも用意していたんだけど、それから、」
ヴィクトルの慌てている様子に驚いていたが、よくよく考えればまだこちらは夕方の6時である。さては時差が6時間であることを忘れていたようである。
「それにこんな遅い時間に電話をして本当にごめんね。お土産たくさん買って帰ってくるし、話したいこともたくさんあるから、早くそっちに帰るよ。」
「うん、わかった。気をつけて帰ってきてね。」
「...なまえは怒っていないのかい?」
「何について怒っていると思ったのかは知らないけれど、ヴィクトルが連絡しないことはしょっちゅうだもの。今こうやってバレンタインだからってわざわざ連絡してきてくれたことの方が嬉しい。」
「とはいえその連絡も結局次の日になってしまったんだ。本当に申し訳ない。」
「ねえ、ヴィクトル。すっかり忘れているようだけど、日本とこっちでは6時間時差があるのよ。」
「ワーオ!すっかり忘れていたね!でもやっぱり残念だよ。なまえと一緒にバレンタインを過ごせないのは。」
「帰ってきたらまたいつもみたいに過ごせば良い話よ。さて、日本はもう真夜中なんでしょう?早く寝てくださいな。」
「やっぱりなまえの声を聞くとよく寝れそうだよ。でも本当はそばにいて聞きたかったかな。
If I were a bird, I could fly to you.
サラリと言った言葉で私を喜ばせてしまう彼はどこにいても変わらないらしい。
そして私が黙って数秒後、玄関の鍵が開く音が聞こえた。
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