丸井くんの前では 

「てんと…おおうっ!?」


テントウムシに気付いた丸井くんは、椅子をガタガタ言わせながら驚いてた。

いつもお兄さんみたいに頼もしい丸井くんがこれ程までに慌てる姿なんて見た事がなかったから、ちょっと面白かったな。

テントウムシにすっかり怯えていたので、指ですくって取ってあげると、丸井くんは深く深く安堵のため息をついてた。

こんな風に怖がってるとこ見たら、私が頑張らなきゃ、なんとかしてあげなきゃって思えちゃうもんなんだなぁ…
もともと虫は触れるから、そこまで頑張ってないんだけども。

でもいつも頼ってばかりの立場だから、丸井くんの力になれたみたいで嬉しかった。
なんて、丸井くんは手で払おうとしてたんだけどね。

それを救うために指ですくったけど……
あ、寒っ。


……2回目の席替え。正直、とても嫌だった。
教室に熊が乱入して席替えは中止になればいい…なんて思ってた。

やっとこの席にも慣れてきたのに、丸井くんとも仲良く……いや
丸井くんや仁王くんとも仲良くなれたのに。


「…ほんっと、二学期くらいまでこのままでも全然良いわ俺」


ぼそっと呟いていた丸井くんの声が、私にははっきりと聞こえていた。

二学期くらいまで……かぁ。
私は、卒業するまでこのままでもいいんだけどな…それは流石に嫌よね、丸井くんは。

私がどんなに熊の出没を望もうが、イナゴの大群が押し寄せてきてほしいと願おうが…
あっ、それは丸井くんが可哀想か。

とにかく、席替え中止になる事はなく着々と段取りは進んでいって
丸井くんの席がどこなのか聞いた時、なにもかもどうでも良くなった。

席が近くなくても、同じクラスだから喋る機会はある。
でも、いつも丸井くんの方から声かけてきてくれてたのに…

丸井くんだって、席が近いから話しかけてくれていただけだろうし。
そもそも私の後ろに仁王くんが居たから、話すきっかけができた。

席も遠いのに、もう、話す事なんてない。
そう思ってたのに

何故か、席替えした後の私の席の前には丸井くんが居た。

どうしてなのか聞いたら
細かい事は気にするなって言われたけど、別にどんな理由でも良かった。

ただ、確認したかっただけだから。
丸井くんがまた、私の前の席なんだって事。


私は…丸井くんのおかげで変われたと思ってる。

丸井くんは私が男の子に慣れるようにと協力してくれて、毎日のように声をかけてくれた。

だんだん丸井くんに慣れてきて、仁王くんとも話せるようになって、
今では他のいろんな人と話せるようになった。

もし声をかけてくれなかったら、あの時のまま、前髪も延ばしっぱで暗く過ごしてただろう。
前髪があると視界も狭まるし、落ち着くから。

でも丸井くんと話すようになってからは学校に来るのが楽しくって。
目にかかる長い前髪がうっとうしいと感じるようになった私は、思い切って前髪を切った。

私がこうなれたのも、みんな丸井くんのおかげだ。


それに、前髪を切ったのは、うっとうしいってのはもちろんなんだけれど。

ちょっと、可愛くなりたいって気持ちもあったから……

丸井くんの前では
end.

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わらびもち

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