仁王くんの実況 

予鈴が鳴る直前くらいに丸井が教室に入ってきた。
朝練は早めに終わっていたが、丸井は赤也の奴と一緒に説教されとったんでのう。

朝っぱらからポテチだのコーンフレークだの食べてたのが見つかって、真田に大目玉食らっとったんじゃ。
「朝食に菓子とは何事だ!米を食わんかー!」と。

ポテチはともかくコーンフレークは別に怒る範囲じゃなかろ。
それ食べとったん赤也やし。
完全なるとばっちりやて。

立派な朝食な気もするんやが、なんかめんどかったので柳生に任せてそのまま教室で昼寝した。


「やつれとるのう、ブンちゃん」

「うっせ。あーもう真田のやつ…栄養のバランスについて永遠喋るし…どんな朝メシ食おうが俺の勝手だろい…めっちゃ米推してくるし…米米米って…」


ぶつぶつ小言を言いながら、丸井は俺の席を通り過ぎて、力任せに自分の椅子を引いていた。
イラついとるの〜。

どうやら苗字には気付いとらんようじゃが
さてさて、こっからが見ものじゃのう?

どちらから先に声をかけるか…まず苗字からはないな。
いつも先に挨拶するのは丸井のほうじゃき。


「仁王くん…丸井くん、機嫌悪いね…」


心配を隠しきれないという顔で、苗字がこちらを振り返った。

ほほう、これはこれは。
今朝から見ていたのにも関わらず、見慣れんぜよ。
前髪が違うだけでこうも印象が変わるとは。
控えめに言って美人じゃなほんま。

ますますブンちゃんの反応が楽しみで仕方ない。


「お前さん、朝の挨拶してみんしゃい」

「え?い、いや…機嫌悪いみたいだから声かけないでおくよ…」

「朝の挨拶をされて嬉しくない人間はおらん。お前さんも挨拶されたら嬉しいじゃろ?」

「それは嬉しいけど…でも」

「ええから。やってみんしゃい」


俺が催促してやると、苗字はためらいつつも丸井に声をかけた。


「なに」


こっちを振り向いたはいいが、機嫌悪いオーラ丸出しじゃ。
苗字はちっさい声になりながら言った。


「お、おはよう…」

「あーおう、おはよう。…はっ?」


空返事をした丸井はそんまま前を向き直そうとして、再び苗字を振り返った。

見事な二度見ぜよ。
さあ、一体どんな反応を見せるんじゃ?


「誰お前、B組のやつじゃないよな?」

「えっ」


俺と同じ反応してどうするんじゃブン太〜

でも、待つんじゃ、まだまだやき。
お楽しみはこっからじゃ。


「あの、私、苗字です…」

「苗字?ここの席のやつも苗字って名前だけど」

「だから、その苗字名前が私で」

「嘘だろ、おい……同姓同名?」

「に、仁王くん〜…」


ボケまくる天然丸井に、苗字が助け舟を求めてきた。

なんや、期待してた反応とは程遠いのう…
ま、しゃーなしぜよ。


「ブンちゃん。ほんまにこいつの事わからんのか?」

「知らねーよ。てか勝手に苗字の席座んなよ、あいつもどこ行ったんだ?もうすぐチャイム鳴るってのに」

「……丸井くん…」


どうやら真田にこっぴどく叱られすぎて正気を失っているようじゃな、ブンちゃん。

-3-

しおり もくじ
ページを飛ばす(3/4)



わらびもち

わらびもち