あれ?前髪切った?
一時限目が終わって、休み時間となった。
あれからずっと苗字って気付かんまんまとは、いろんな意味で図太い神経しちょる。
まぁ、授業が終わっても尚、苗字がここに居るんじゃ。
流石の丸井も気付くはずぜよ。
てか声とか顔の形で気付け、阿呆。
「次数学だな〜苗字。だるいから一眠り…うわっ、いつすり替わったんだよ?さっきの授業はB組の苗字だった気がすんだけど。」
「え〜…だから、もう。」
恐らくプリント回す際にチラッと見えただけじゃから、脳が勝手に苗字と認識したんやろな。
そもそも苗字自身なんじゃが。
なんともややこしい奴ぜよ。
どんだけ前髪切った苗字が苗字じゃないと思い込みたいんじゃ。
これはもう、降参ナリ。
「のう、ブンちゃん」
「ん?なんだよ」
「こいつはB組の苗字名前ぜよ。前髪を切って別人みたいになっとるがな」
「前髪?………あれ?お前、苗字!?」
うん。リアクション致命的に遅すぎな。
とりあえず苗字って認識できたみたいやけん、ようやくお楽しみの時間じゃ。
丸井は食い付くように苗字の顔をガン見しながら、あっけらかんとした表情で呟いた。
「前髪切ったんだ?」
「うん…そう。切ったよ」
苗字の反応が意外と薄い。
あんな反応をされては、いくら丸井好きな苗字でも冷めるか。
ブンちゃん、ほんまに致命的ぜよ。
「悪い、すんごい変わりようだったから苗字って気付かなくてさ」
「ううん。目にかかるくらい前髪伸ばしてたし、わからないって言われても仕方ないと思ってるよ。」
後ろからなので苗字の表情がうかがえないが、声がわりかし怒っちょる。
まさかあの温厚な苗字を怒らすとは。
苗字の性格上、気付いてもらえん事に対して露骨に落ち込むかと思ったんじゃが。
やっぱり好きな奴に気付いてもらえないとなると…くくく。
わくわくして一番後ろから2人の様子を眺めとったら、丸井が不思議そうに言った。
「なんで切ろうと思ったんだ?」
「単純に、サッパリしたかったって言うか」
「あー、ほんとサッパリしたよな!でも前まで伸ばしっぱでも気にしてなかったじゃん、突然そういう気分になったとか?イメチェンってやつ?」
「うん…そんな感じ…」
やめろ、やめろ丸井。
髪切った理由をそんな事細かく聞かんでもええんじゃて。
そこはもう、シンプルに「似合ってる」だの「可愛い」だの言ってあげんしゃい。
女子が求めてるのは大抵その言葉ぜよ、好きな奴からなら尚、効果抜群。
丸井は苗字の顔をじっと見てから、ニカッと笑った。
「うん、いいと思う!」
「え?」
「目もちゃんと見えるし!俺はそっちのが好きだぜい!」
「あ……ありがとう…」
なんのためらいもなく「好き」というワードを組み込むとは。
計算しとるんかってくらい巧妙な手口じゃ。
丸井のあの様子では素直に思ったことを言うてそうじゃ。
まだ「妹」として見とるんか。
変わった苗字を見て、少しは女として意識するかと思ったのに
なんや期待外れやの〜
…………
……
仁王に後ろの女子が前髪を切った苗字だと言われた時、死ぬほどびびった。
めっっちゃ印象変わってたし。
苗字だと思えるはずがねぇよ。
なんとか平然に振る舞ったけど、内心めちゃめちゃ焦ってた。
苗字のこと見て可愛いって思っちまったの、初めてだったから。
3cmカット
end.
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わらびもち