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新人の頃はまずメニューを覚えることから始まる。メニューを書き写したメモを握りしめながらオーダーをとったり、”ジェノベーゼ”や”ボンゴレビアンコ”などの横文字に悩まされる日々が続いているが何とかクタクタになってでも仕事を終える日々。
今日も怒涛のランチタイム営業を終え、客足もひと段落したところで錦戸さんの声がした。
「焼きコ取りにおいでや〜」
『ん?』
今日は名前で呼ばれたなーなんて。なぜ呼ばれたのかあまり分からないままにとことこと錦戸さんが手招きする方に近付くと。
あら
いいにおい
「はよ、ここ座り」
『?はい…』
言われたとおりにイスに座ると 目の前にコトンと置かれたお皿 。どーんと、どや顔で立ってる錦戸さん。
「まかない、今日はリゾットやで」
『お、おしゃれー…』
錦戸さんはいただきま―す!と言ったアタシの隣にそのまま座って同じくいただきますと呟いて手を合わせる。
『んー…!おいしい!』
当然やと言わんばかりの笑みを浮かべる料理人を前にもう一口、もう一口と口に入れては口いっぱいに広がるトマトの旨味を感じる。
トマト、にんにく、米、オリーブオイル、塩だけで作られた、シンプルがゆえに、優しい味が染みわたるその一品に新しいことを覚えるのに必死で強張っている身体からほうっと力がぬける。
そんな私の様子に目の前の料理人も嬉しそうに目を細めてくれる。
『錦戸さんの手料理をまかないで食べれるなんて幸せですねぇ』
「ほんまに―」
「お前は食い過ぎや」
後からやって来た大倉さんにリゾットを渡しながら錦戸さんがにやりと少し照れ臭そうに笑う。ほんとに美味しい、これ。 こんな顔の人が作ってるとは思えない。
オーダーを取る際に、お客さんが何にしようか迷っていると決まるまで待つことになるわけで、そんな時「この方は何を注文するのかな?」と勝手に予想するのが最近の密かな楽しみだったりする。見事予想が当たると心の中で「よし、当たった!」と密かに喜んでしまったり。今度からお勧めを聞かれたらこのリゾットも候補に入れてみよう。
『ごちそうさまでした!おいしかったです』
「量はあれで足りた?多かったか?」
『いえ。満腹大満足です。スミマセン時間かかって』
「いや、ちゃんと食べてくれてありがとう」
優しくそう言ってくれてすこしホッとしてしまった。食べることは好きだが、一気にたくさん早く食べることが苦手なためこうして周りの人を待たせることはこれまで多々あった。いつしか気の置けない限られた友達としか食事も取らなくなっていった。そんな私の頭にポンと軽く手を乗せてまた錦戸さんは目を細める。
「無理に食べんでも、多かったら大倉に食べさせたらええから」
「そうそう。最初から少なめでって言えば亮ちゃんもきいてくれるし」
気にせんでもええで、と小さな声で鼻かきながら錦戸さんは言ってくれた。あったかいなぁ、この店は。
『…ありがとうございます』
「おん」
食べ終わると錦戸さんがパンパンと手を二回たたく。なにごとだろうかと首を回せばそこには仁王立ちした彼が昼休憩の終わりを告げていた。
「はい、じゃあ切り替えるで」
『はい!』
「お客様は?」
そうそう、普段はゆるゆるなんだけどほら、キメる所はビシっと…
「ほら、お客様は?」
『神さm…』
「金ヅルです!」
「違うわボケ」
ぱしこーん、というマンガのような音がきこえたのはいわずもがな。
あの顔面を前にしてボケる器量のある大倉さんは大物だと思います。
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今日も怒涛のランチタイム営業を終え、客足もひと段落したところで錦戸さんの声がした。
「焼きコ取りにおいでや〜」
『ん?』
今日は名前で呼ばれたなーなんて。なぜ呼ばれたのかあまり分からないままにとことこと錦戸さんが手招きする方に近付くと。
あら
いいにおい
「はよ、ここ座り」
『?はい…』
言われたとおりにイスに座ると 目の前にコトンと置かれたお皿 。どーんと、どや顔で立ってる錦戸さん。
「まかない、今日はリゾットやで」
『お、おしゃれー…』
錦戸さんはいただきま―す!と言ったアタシの隣にそのまま座って同じくいただきますと呟いて手を合わせる。
『んー…!おいしい!』
当然やと言わんばかりの笑みを浮かべる料理人を前にもう一口、もう一口と口に入れては口いっぱいに広がるトマトの旨味を感じる。
トマト、にんにく、米、オリーブオイル、塩だけで作られた、シンプルがゆえに、優しい味が染みわたるその一品に新しいことを覚えるのに必死で強張っている身体からほうっと力がぬける。
そんな私の様子に目の前の料理人も嬉しそうに目を細めてくれる。
『錦戸さんの手料理をまかないで食べれるなんて幸せですねぇ』
「ほんまに―」
「お前は食い過ぎや」
後からやって来た大倉さんにリゾットを渡しながら錦戸さんがにやりと少し照れ臭そうに笑う。ほんとに美味しい、これ。 こんな顔の人が作ってるとは思えない。
オーダーを取る際に、お客さんが何にしようか迷っていると決まるまで待つことになるわけで、そんな時「この方は何を注文するのかな?」と勝手に予想するのが最近の密かな楽しみだったりする。見事予想が当たると心の中で「よし、当たった!」と密かに喜んでしまったり。今度からお勧めを聞かれたらこのリゾットも候補に入れてみよう。
『ごちそうさまでした!おいしかったです』
「量はあれで足りた?多かったか?」
『いえ。満腹大満足です。スミマセン時間かかって』
「いや、ちゃんと食べてくれてありがとう」
優しくそう言ってくれてすこしホッとしてしまった。食べることは好きだが、一気にたくさん早く食べることが苦手なためこうして周りの人を待たせることはこれまで多々あった。いつしか気の置けない限られた友達としか食事も取らなくなっていった。そんな私の頭にポンと軽く手を乗せてまた錦戸さんは目を細める。
「無理に食べんでも、多かったら大倉に食べさせたらええから」
「そうそう。最初から少なめでって言えば亮ちゃんもきいてくれるし」
気にせんでもええで、と小さな声で鼻かきながら錦戸さんは言ってくれた。あったかいなぁ、この店は。
『…ありがとうございます』
「おん」
食べ終わると錦戸さんがパンパンと手を二回たたく。なにごとだろうかと首を回せばそこには仁王立ちした彼が昼休憩の終わりを告げていた。
「はい、じゃあ切り替えるで」
『はい!』
「お客様は?」
そうそう、普段はゆるゆるなんだけどほら、キメる所はビシっと…
「ほら、お客様は?」
『神さm…』
「金ヅルです!」
「違うわボケ」
ぱしこーん、というマンガのような音がきこえたのはいわずもがな。
あの顔面を前にしてボケる器量のある大倉さんは大物だと思います。
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