舗装されていない道端に転がる痩せ細った体は、一つや二つではなかった。

隣り合う店は全て厚手のカーテンで仕切らえているが、毒々しい色をしたリンゴの上を飛ぶ蠅を見る限りまともな品物の入手は期待できそうにない。店と店の間にある狭い路地には大量のゴミが積み上げられ、充満した腐敗臭と投げ捨てられた死体に集まる鴉に思わず顔を背ける。

正常な精神を持つ者では到底生活できそうにない劣悪な環境。金も地位も、権利すらも剥奪された者が、日常という地獄を生きながらえるために強奪と殺人を繰り返す…――ここは、そんな悪党が住む星。



―――末端組織が契約を反故にした。至急対処せよ。

数日前、任務を終えて宇宙を飛ぶ第七師団の戦艦に入った緊急要請は、ごくあっさりとしたものだった。聞けば違法薬物取引で得た利益を着服するだけでは飽き足らず、春雨内部の情報を別の組織に売ろうとしているとか。これは見過ごせないと踏んだ元老は、その追跡から対処に至るまでの全権を第七師団に委ねた。

それ以降、例に漏れず副団長の指揮下で動いていた第七師団だったが、ある時掴んだ目撃情報によると、組織の裏切り者はどうやら伝手を頼って"この星"に逃げ込んだらしい。信頼できる筋からの情報を頼りに艦隊を進めれば、辿り着いたのは想像以上に酷い星だった。続く任務で消耗した物品やエネルギーの補給もしたかったが、これでは数日の滞在も難しそうだ。

そして現在。師団内の統率をも一任されている阿伏兎は、着陸後突然姿をくらました上司(と書いて問題児と読む)の姿を追っていた。惨憺たる街の様子に小さく肩を竦めながら、四方から飛んでくる好奇の視線に溜息をもらす。


『…全く、うちの団長はどこ行ったんだァ?』


どうにも胸騒ぎがする。何かと問題を引き起こす上司に降りかかる災難、ではない。虫の知らせ、とはまた違うもの。


『頼むから、これ以上俺の仕事を増やしてくれるなよ』


そう願うときに限って何かと問題が起こることを身をもって体験している阿伏兎は、いまだ姿の見えない上司を早々に発見・回収すべく、歩く速度を速めた。

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