一面荒れ果てた土地で、サーモンピンクの髪だけが明確な意思を持っているかのように風に揺れていた。
長年の経験で培った海賊としての勘を頼りに足を進めていた神威の前に立ちはだかったのは、まさに今自分達が追っている末端組織の構成員だった。組織の解体並びに頭目の始末を目的とする上からの命を遂行するために、神威がやることは一つ。だが見た限りでは、自分を楽しませてくれそうな骨のある奴は見当たらない。
神威はざっと辺りを見渡して肩を竦めた。春雨全十二師団中最大の戦闘力たる第七師団との直接対決を前に数は揃えたようだが、見たところ雑魚ばかり。中には期待できそうな者もいるが、どれも自分の敵ではない。
今回の件がいくら上からの命とはいえ――勿論これは神威にとって取り立てて言うほどではないのだが――流石にこの雑魚相手に戦闘は気が進まない。部下に任せようにも生憎今は一人。
すると何も動きを見せない神威に勝利を確信したのか、一人の構成員が勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
『いくら春雨の雷槍とは言え、この数相手では五分ともたんだろう!』
『ここに一人で来るとは、噂通り第七師団長は命知らずなことだ』
その声を皮切りに、群衆の中で嘲笑と非難が広がっていく。弱い奴ほどよく吠える。その言葉を体現する輩に、つい我慢していた溜息が漏れた。
…つまらないな。
そう吐き出しそうになった時、突如辺りに響き渡る銃撃音と共に、円を作っていたうちの一人が血飛沫を上げて地面に突っ伏した。一体何事かと動揺が広がる間にも、連中は次々と地に臥していく。
『だ、誰だ!?』
『まさか第七師団の奴らか…!?』
聞き慣れた音は彼の同胞が扱うそれだが、生憎戦闘中の神威の前に立つ命知らずは第七師団にはいない。この間にも、突然の奇襲で混乱している構成員達は成す術もなく次々と地に臥していく。
一ヶ所を中心に広がる被害を見て、敵が一人であると認識した一人が声を荒げた。
『か、頭!アイツは恐らくこの星の―――!』
しかしその言葉は最後まで続かず、喉を掻き斬られたそこは小さな呼吸音を漏らすだけだった。あまりにも一瞬の出来事に、再び動揺が広がる。しかしこの騒ぎに乗じて神威を討とうとする者は誰一人としていない。
相当混乱しているのか、はたまたただの馬鹿なのか―――そんなことを考えながら傍観を決めていた神威だったが、次々と片付いていく様子を見て、次第に気分が高揚していくのを感じた。
『くそっ、こうなりゃ神威だけでも!』
そこでようやく自分の本来の役割を思い出したのか、勝利を確信していた哀れな男が先程とは正反対の表情を浮かべながら真っ直ぐ神威に向かってきた。
まだ見ぬ強者との邂逅は、その直後だった。
大量の土埃が舞う中から姿を現したのは、夜兎が身に纏うそれだった。右手に持つ番傘も見慣れたものだったが、自分たちが持っているものよりは幾らか大きい。どこかかつての神威の師が持っていたものを彷彿とさせる。典型的な夜兎の格好ではあるが、第七師団員ではなさそうだ。
『な、に…!?』
驚愕を顔に浮かべた構成員が振り返った瞬間、神威の同族と思しき者は地を蹴って軽々と飛び上がった。
「悪いが、これは私の獲物だ」
言いながら傘を持ちなおし心臓に一突きすれば、男はすぐに活動をやめた。それを見た奇襲者はふん、と鼻を鳴らし傘を引き抜く。広がる血溜まりの上に立ち、傘から血を払うように地面めがけて一振りすれば、びちゃっ、と音を立てた血がゆっくりと地面に染み込んでいった。
「さて、あと半分か」
フードに隠れて顔を窺うことはできないが、聞こえた声は思っていたよりも高いものだった。
『…女?』
予想外のことに一瞬目を瞬かせた神威が呟くと、女はちらりと視線を送った。一瞬交わった翡翠に、自然と弧を描く。
その直後、辺りを見渡していた第三者の両側から、怒号と共に大群が一斉に飛び掛かった。しかし女は一切焦ることなく、持っていた番傘から片側に銃弾を撃ち込むと、それだけでは防げなかった反対からの攻撃を素手で防いだ。と、思えば軽やかな身の熟しで強烈な回し蹴りを食らわし、その勢いのまま下から突き上げるように顎を砕く。
軽く地を蹴り後退すると、後ろから迫っていたもう一体の腹を素手で突き破った。引き抜いた腹から血飛沫が上がり返り血を浴びるも、全く気にしていない様子で今度はくるりと宙を舞うと、番傘を両手で持って脳天に狙いを定める。敵の制止する言葉を聞き終わる前に、それは見事に脳天を貫いた。