薄氷

01


「白澤様のとこ行くといっつも同じ女の人の匂いと色んな女の人の匂いがするんだ」

「まさか、あの人と長続きする彼女なんているわけないだろ?」

シロと柿助とルリオは獄卒としての業務を終えると食事をともにしていた。突拍子のないシロの発言にも長年の付き合いである彼らの対応は手慣れており会話は成立している。

「しかもその考えだと浮気を容認してることになるぞ」

「だけど気になるなぁ」

そんな会話を続けていたが、また話を振ったシロ自身が新しい会話の種を撒いたためいつの間にかそこで話は終わってしまっていた。

「ってことがあって…鬼灯様何か知らない?!」

「何故私が彼のことで相談を受けたのか非常にた不快ですが…そうですね」

シロは考え抜いた。そして閃いた。これは地獄のウ◯キペディアこと鬼灯様に聞くのが一番だと。本人は嫌悪する相手の事を聞かれ朴念仁の様な顔が険しくなった。

「名前さァァァァァん!」

知らない人の名前を大声で叫んだかと思うと鬼灯はキョロキョロと辺りを見渡し始めた。いきなり叫ばれたものだからシロは驚きを隠せず毛が逆たった。

「呼びました?」

「毎回何処から湧いて出てくるのか分かりませんね貴方」

突然ひょっこりと現れたのは額に花紋がついた白を基調とした服を着た女性だった。シロは突然現れたその人から匂いが同じであることにすぐに気がついた。

「彼女は孟極という妖怪です。呼んだら何ふり構わず来てしまうというあんぱんから成るヒーローの様な性質を持っています」

「へ、へえ…助けを求めてなくても来てくれるんデスネ」

癖が強そうな彼女にシロは戸惑いを隠せない。彼女の顔を見た。うん、間違いなく白澤様が声をかける。というよりも彼は性別が女であれば見境はないのだが。彼女は道を歩けば目に止まるであろう程の容姿を持ち合わせていた。

「昔に散々鬼灯さんにこき使われた事も今は懐かしい思い出です」

「からかい過ぎて白豚さんまで引っ付いて来たので直ぐにやめましたがね」

名前は懐かしそうに鬼灯との過去を思い返す。あの頃の彼はまだ今よりも幼く、可愛げがあったというもの。そう、あの頃は。

『ハァッハァッ…よ、呼びましか…?』

『ちょっと中国までお願いします。帰り道でしょう?』

『貴方が呼んだせいでね』

いや、見た目以外殆ど変わってないわこの人。昔から冷徹ドS野郎だった。可愛らしい見た目に騙されるところだった危ない危ない。名前は冷や汗が出てきた。

「どうかなさいましたか」

「き、急に寒気がしました」

朴念仁の様な表情が彼女に視線を向ける。それが原因で過去に受けた仕打ちが蘇る。そして、逆らえない。完全に調教されていた事に今更気がついたのだ。

「今日はどんな用事で呼び出したんですか?」

「ただ、貴方と白澤さんの関係を聞かれたので」

それを聞いて名前はずっこけた。そして怒っているのであろうが全然威圧感はない。

「ほ、鬼灯さんが言ってくれればいいじゃないですか!!私をなんだと思ってるんです」

「アッシー」

「もう死語ですよそれ…」

悪びれる事もせず、淡々とアッシーというレッテルをはられた事にショックを隠しきれない。シロは二人の様子を見ながら名前に対しての上下関係を見切った。自分と同等に扱っても支障はないと。

「結局白澤様とどういう関係なの?」

「(タ、タメ語…)そうですね、白澤様とは…」

その関係とは…。変に間をためたせいで周囲の雰囲気は緊張感に支配される。シロは呼吸数が早くなりハッハッと息をする音だけがその場に流れた。

「気の合うお友達ですね」

「今までの間を返してください。知ってましたけど」

「ええーっ。つまんないなぁ」

「面白さを求められても…」

案の定シロはシュン…と尻尾を振るのをやめて下に垂れる。逆にどんな関係を求めていたのだろうか。しかも、人の関係を面白がらないで頂きたい。しかしその見た目の愛らしさに名前はついつい頭を撫でてしまう。

「それでは私は役目を終えたようですし、帰りますね。今日はワールドカップの試合があるので。私は忙しいのです」

「やはり暇じゃないですか」

人間好きな彼女は人間界のテレビ番組をよく見ている。特にスポーツやドラマが好きなようでこの前呼び出したときには箱根駅伝をリアルタイムで全て見ていた。

さっと、空に浮かび本来の白豹のような姿に戻るとあっという間にその姿は小さくなっていった。

prev next
Back to main nobel