双極

13


「み、見つけた…!」

駆け回ったのか息が荒い名前さんが私を見つけると駆け寄ってきた。自然と後退りをしてしまったが、逃げる間もなく袖を掴まれてしまった。

彼女を意識して避けるようになってしまったのはあの日からだ。

顔を真っ赤にして気を失ってしまった彼女を見て、ふっと笑みが溢れた。思わず髪を撫で下ろしてしまったのだ。無意識に。

(ハッ、私は一体何を…。彼女を可愛らしいとさえ思ってしまった)

彼女の髪を撫でた右手を見つめ、自分でも理解が追いつかない。

風化できない感情だった。

それ以降、なぜか彼女を見ると胸の辺りがざわついて落ち着いていられなくなってしまったのだ。

久しぶりに真正面から見た彼女の瞳は哀しそうだった。きっと私の行いに言いたいことがあるのだろう。

「私、何の苦もなく育ちました。努力だって、人よりしてないし、マイペースだし、きっと、利吉さんの気に触ること沢山してたんですよね」

「それは…」

それは否定できない。小松田くんと同様に温暖な環境で育った人とは馬が合わないのは事実だった。口を開けて話そうとしたのだが、珍しく彼女はそれを遮った。

「己を律することを目標にっ、してる、のに、ウウッ…私、全然甘くて、あの」

「分かった、分かったから取り敢えず落ち着こう…な?」

感情が昂って、大きな目から大粒の涙がポロポロとこぼれ出した時には、慌てて彼女の肩を掴んでそう言っていた。いつもの胸のざわめきが掻き消されて、以前のように普通に話せていた。

「嫌われる、要素は沢山持ってるんですけど、利吉さ、んに嫌われたく、ないんです」

「っ!!」

目の前でゴシゴシと目を擦っている彼女。そんなことしたら目が腫れやすくなるというのに、泣き慣れていないのだろう。思いっきり強く擦っている。

こんなに悩ませてしまっていたのだろうか。自分のしていた事がいかにも子供染みていて、罪悪感が込み上げてきた。

「最初は…たしかに、君を見て腹を立てたことはある」

「ズビッ…はい」

「けど、今は…胸が騒めくんだ。自分でも理解し難い…あっ!」

ポカンとする名前。数秒経って自分がものすごい爆弾を投下したことに気がついた。彼女の理解が追いつく前にかき消さなければならなかった。

「と、とにかく、悪かった。君を嫌ってるわけじゃない」

「ほ、本当ですか」

「ああ、本当だとも。では、もう行くから」

誤解は解けたようで、涙も引いた。今は穴があったら入りたい。今すぐこの場から立ち去りたいという思いに素直に体を動かそうとする。

「ま、待って、利吉さんっ」

呼び止められてしまい、背を向けていたが仕方なく半分だけ振り返ってみせた。

「ありがとうございます、利吉さんっ」

次見た時の彼女の顔は笑顔だった。なんの不純物も含まない彼女の屈託のない笑顔にまた胸を締め付けられた。

「ああ。それじゃあ…また」

それくらいしかいえなかった自分が情けない。

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